2026年3月、横浜開港資料館の紀要第40号で、学芸員の𠮷﨑雅規さんが一つの連載を始めました。幕末の駐日アメリカ公使ロバート・ヒューソン・プラインが、故郷の妻に書き送った手紙を訳していく仕事です。手紙はニューヨーク州オルバニーの歴史文化研究所にあり、𠮷﨑さんは2009年9月に現地で調べています。当時、日本では中身が知られていなかった資料群でした。
筆まめな公使の手紙は量が多く、故郷の知人や家族の話も混じります。𠮷﨑さんはそこを「日本の読者には興味が薄い部分と思われた」と書き、江戸と横浜の政治・社会・暮らしがうかがえる記述を拾って、事項ごとに訳すことにしました。第40号は1862年の分で、1863年から65年までの手紙は次の号から取り上げる予定です。
焼けた町の記録を国内外から集め直す
館長の西川武臣さんは、館の成り立ちを説明する文章で、横浜が関東大震災と横浜大空襲で市街地の中心部に大きな被害を受け、町の歴史を伝える資料を失ったことを書いています。そのうえで続けるのが、「我々は失われた資料に代わる古記録・古写真・新聞・絵画などを求めて国内はもとより外国からも資料を収集してきました」という一文です。オルバニーに残った公使の手紙を読む仕事も、この「外国から」の一つにあたります。
館は1981年、開港百年を記念して編さんされた『横浜市史』の収集資料を基礎に開館しました。扱うのは幕末から昭和初年までの横浜です。集めた資料は展示するだけでなく、新館地下1階の閲覧室で市民や研究者に公開しています。閲覧室で読めるのは、江戸時代から大正・昭和初期までの横浜に関する内外の歴史資料です。館報「開港のひろば」には「閲覧室より」という欄があり、近年の号では「横浜港出入船の調べ方」や「江戸時代の武士について調べる」を学芸員が書いています。
ペリーの遠征記が並ぶ展示室と旧英国総領事館
新館1階の展示室1「横浜開港への道」は、ペリー来航とその前後の世界、日本、横浜を紹介する部屋です。ペリーの「日本遠征記」、黒船に驚く瓦版、開港まもない横浜を描いた錦絵、地図、写真が並びます。2階の展示室2「街は語る-開化ヨコハマ-」は、明治14年(1881)の横浜実測図を床に敷き、その場所で始まった「横浜もののはじめ」を紹介しています。館は『横浜もののはじめ考 改訂版』(2000年刊)という本も出していて、公式サイトの一覧にはホテル、牛乳、パン、アイスクリーム、ビール、ガス灯、鉄道などが並びます。
同じ2階の展示室3「横浜の記憶―多彩な収蔵資料―」は、2026年4月1日に常設の展示室になりました。収蔵資料を古文書、海外資料、絵地図、古写真・絵葉書、瓦版・浮世絵、商標の6つに分け、種類ごとの資料の特性を見せる部屋です。資料保存の観点から、ふだんは複製を展示します。
展示室1にあるペリーの「日本遠征記」を日本語で読むなら、角川ソフィア文庫のペリー提督日本遠征記 上PR(M・C・ペリー 著、F・L・ホークス 編、宮崎壽子 監修)があります。上下2巻で、楽天ブックスのほかAmazonの上巻のページPRからも買えます。
旧館は昭和6年(1931)に建てられた旧英国総領事館で、横浜市指定文化財です。2007年には経済産業省の「近代化産業遺産」にもなりました。1階中央の記念ホールは総領事館の時代に待合室だった部屋で、いまは来館者の休憩室です。記念室には、縮尺1/1000の「開港期の横浜」の模型と、薩英戦争の記念銘板があります。


条約締結の時からあったと伝わるたまくすの木
館の建つ場所は、1854年に日米和親条約が結ばれた場所です。館長の文章は、中庭の「たまくすの木」について「条約締結の時からあったと伝えられています」と書いています。木はタブノキで、ペリー艦隊に随行した画家ハイネが描いた「横浜上陸」の木がそれにあたると、館は考えています。
この木は二度、大きな被害を受けています。1866年(慶応2)の大火では樹形が変わるほど焼けました。一帯は大火の前から領事館用地に指定されていたので、焼けた木はイギリス領事館の庭で新しい芽をふきました。1923年9月1日の関東大震災でもふたたび傷み、領事館の再建に先立つ1930年6月に、約10メートル動かして今の位置に移されています。館はこの木を「近代横浜の生き証人」と呼んでいて、横浜市地域史跡にもなっています。

旧館2階の「昭和の背中」展
いま開いている企画展は「昭和100年記念 広瀬始親写真展 昭和の背中―昭和30年頃の横浜点描」です。会場は旧館2階ギャラリーで、会期は2026年7月18日(土)から12月27日(日)まで。観覧料金は一般500円、小・中学生と横浜市内在住65歳以上は250円です。

企画展は年に何度か入れ替わり、2025年には「長崎―開港都市横浜の前提」や「小川雄一コレクション初公開 横浜の外国商社と舶来時計」がありました。会期が終わると入館料も変わるので、行く前に公式サイトの企画展の一覧を見てください。
入館料
入館料は、開いている展示室で変わります。団体は20名以上です。
| 一般(高校生以上) | 小・中学生/横浜市内在住65歳以上 | |
|---|---|---|
| 展示室1・2のみ開室時 | 個人200円・団体150円 | 個人100円・団体80円 |
| 特別公開の開催時 | 個人500円・団体400円 | 個人250円・団体200円 |
閲覧室だけを使うときは100円です。特別展・企画展の開催時の入館料は、そのつど別に決まります。毎週土曜日は小・中学生と高校生が無料です。身体障害者手帳、愛の手帳(療育手帳)、精神障害者保健福祉手帳を持つ人と介護者も無料で、入館の際に手帳か、スマートフォンアプリ「ミライロID」の手帳画面を見せます。毎月第2水曜日の「濱ともデー」は、横浜市内在住65歳以上の人が「濱ともカード」の提示で無料です。窓口では現金のほか、クレジットカードと交通系ICカードが使えます。
開館時間は9:30〜17:00(入館は16:30まで)。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始などです。閲覧室は電話での事前予約が必要で、毎月第4金曜日と資料整理週間(6月・2月)も休みます。
撮影・飲食・団体の申し込み
展示室内と敷地内の写真撮影は原則できます。動画は展示室と歴史的建造物の中では禁止で、敷地内の屋外なら撮れます。ストロボ、三脚、自撮り棒は使えません。モデルを伴う撮影は個人でも商業利用と同じ扱いで、事前の申請が要ります。他の施設から借りた資料など、撮れない展示物もあります。
敷地内は禁煙で、喫煙コーナーはありません。飲食は中庭のベンチとテーブル、ローズテラスのベンチでできます。ペットはリードやキャリーバッグを使えば敷地内に連れて入れますが、建物の中へは補助犬以外は入れません。
団体はまず電話(045-201-2100)で連絡し、団体利用申込書をダウンロードしてFAXで送ります。学校行事での利用は、班別で生徒全員が入館しない場合でも学校団体申込書が要ります。料金は来館当日に代表者がまとめて払います。
日本大通り駅からの行き方
最寄り駅はみなとみらい線の日本大通り駅で、4番出口から徒歩2分です。JR関内駅(南口)と市営地下鉄関内駅からは徒歩約15分、JR桜木町駅からは市営バスで「日本大通り駅県庁前」下車、徒歩1分です。一般の来館者用の駐車場と駐輪場はないので、公共交通機関で来る必要があります。
日本大通り駅の周辺では、氷川丸(記事へ)や日本丸(記事へ)も見学できます。
編集部の考え
横浜の開港期の記録は、震災と空襲で一度大きく失われています。この館はその分を、国内の資料だけでなく、オルバニーに残った公使の私信のような外国の資料で補おうとしてきました。集めたものは展示室に並ぶだけでなく、閲覧室で市民が読め、紀要では学芸員が訳しながら読み解いています。