「一番のごちそうは、お月さま」。9月25日から28日まで、エリスマン邸のサンルームは「月見の宴」のしつらえになっていました。飾ったのは柏木真知子さんと、伊藤清美さん・井上みどりさんのチーム SHITSURAI です。館のブログによると、サンルームに秋の実りを盛り、自然からの贈り物とお酒でテーブルを彩ったそうです。
エリスマン邸は、横浜・山手の丘に横浜市が公開している西洋館7館のひとつです。7館はどれも、外交官や貿易商の住まい、英国総領事の公邸、外国人向けのアパートとして建てられた家です。いまは横浜市緑の協会・横浜市弓道協会グループが管理していて、7館とも入館無料、9時30分から17時まで開いています。JR根岸線の石川町駅からみなとみらい線の元町・中華街駅まで、3つの公園をつないで半日で歩けます。休館日や順路は2026年9月26日に公式サイトで確かめました。
季節ごとに飾り替える家
月見の飾りはエリスマン邸だけではなく、9月17日から29日までは7館で「重陽の節句、お月見装飾」が行われました。次は10月17日から31日までの「西洋館ハロウィン2026」で、館ごとに別の人が題を付けて飾ります。エリスマン邸は「ハロウィンパーティに迷いこんだ白ネコたち」、山手234番館は「魔女たちのハロウィンアフタヌーンティー」です。10月25日(日)には仮装スタンプラリー(参加無料)があり、10月28日(水)は外交官の家・山手234番館・横浜市イギリス館が休館日です。
初夏には「花と器のハーモニー」があります。横浜市の発表によると、かつて外国人住宅として使われた7館を舞台に、2001年から続く「花とテーブルウェアで彩るイベント」です。第22回にあたる2024年は、日本で活躍する外国人のフラワーアーティストらが、日本各地の器を使って館内を飾りました。この記事の一番上の写真は、そのときの発表資料にある横浜市イギリス館の食堂です。
庭の話もブログに出てきます。港の見える丘公園のローズガーデンで植栽管理をしているサカタのタネグリーンサービスと、山手111番館が共催で、9月24日から29日まで館のギャラリーでパネル展「高嶺の花から身近な華へ~薔薇の耐病性育種の歴史~」を開いています。館の案内には「バラを育てるときに役立つ知識を学ぶことができます」とあります。公式の地図によると、ローズガーデンのバラの見頃は5月中旬と10月中旬です。8月25日には横浜市イギリス館が、中庭のローズヒップについて「きれいなオレンジ色に熟したものもあります」と書き、熱中症に気をつけて散策を、と添えていました。
石川町駅からイタリア山庭園の2館へ
公式サイトのおすすめルートは、石川町駅の元町口から始まります。駅の裏側に出て石川町駅前郵便局の前の大丸谷坂を5分ほど登ると、山手イタリア山庭園に着きます。
外交官の家は、ニューヨーク総領事などを務めた明治政府の外交官、内田定槌の邸宅として、1910年に東京・渋谷の南平台に建てられました。設計はJ.M.ガーディナーです。1997年に内田の孫にあたる宮入氏から横浜市が寄贈を受け、この庭園に移築復原し、同じ年に国の重要文化財に指定されました。部屋には家具や調度類が再現されていて、付属棟に喫茶室があります。

ブラフ18番館は、関東大震災の後にオーストラリアの貿易商バウデンの住宅として建てられ、戦後はカトリック山手教会の司祭館として1991年まで使われました。1993年から公開しています。館内は震災復興期の外国人住宅の暮らしを再現していて、当時元町で作られていた横浜家具を修復して置いています。2階の展示室は寝室に作り替えられました。

山手本通りを歩いて元町公園の3館へ
外交官の家の門から山手本通りに出て左へ曲がり、カトリック山手教会とフェリス女学院の前を過ぎると元町公園です。公式の地図には、ここは「歴史的建造物が3館並んでいる貴重な場所」とあります。
ベーリック・ホールは、イギリス人貿易商B.R.ベリックの邸宅として1930年に設計されました。設計はアメリカ人建築家のJ.H.モーガンで、館の説明では、今に残る戦前の山手外国人住宅の中で最大規模の建物です。約600坪の敷地に建ち、広いリビングルームやパームルーム、白と黒のタイル張りの床があり、子息の部屋の壁はフレスコ画の技法で復原されています。2002年から建物と庭園を公開しています。

エリスマン邸は、生糸貿易商社シーベルヘグナー商会の横浜支配人格だったスイス生まれのフリッツ・エリスマンの邸宅として、1925年から1926年にかけて建てられました。設計はチェコ出身の建築家アントニン・レーモンドです。1982年にマンション建築のため解体され、1990年に元町公園の現在地に再現されました。1階には暖炉のある応接室や庭を眺めるサンルームがあり、椅子やテーブルはレーモンドの設計です。2階は山手の洋館に関する資料展示で、昔の厨房が喫茶室になっています。

山手234番館は、1929年ごろに外国人向けの共同住宅として建てられました。館の説明では、関東大震災の復興期に、横浜を離れた外国人に戻ってもらうために建てられたと考えられています。設計は朝香吉蔵といわれています。1階に再現した居間と館の歴史のパネル展示があり、2階は貸しスペースです。修繕工事を終えて、2026年3月26日にリニューアルオープンしました。

外国人墓地の脇から港の見える丘公園の2館へ
山手234番館から山手外国人墓地の脇を通ると、港の見える丘公園です。
横浜市イギリス館は、1937年に上海の大英工部総署の設計で、英国総領事公邸として建てられました。館の説明によると、東アジアの領事公邸の中でも上位に格付けられていた建物です。1階のホールはコンサートに使われ、2階の展示室と復元された寝室を公開しています。11月15日には、秋の山手ローズウィークに合わせたローズコンサートがホールで予定されています。

山手111番館は、1926年にアメリカ人ラフィンの住宅として建てられました。設計はベーリック・ホールと同じJ.H.モーガンで、館の紹介は「彼の代表作の一つと言えます」と述べています。横浜市が1996年に敷地を取得し、建物の寄贈を受けて改修したうえで1999年から公開しています。ローズガーデンを見下ろす建物で、ローズガーデンから入る地階が喫茶室です。

帰りは来た道を戻り、元町・中華街駅の6番アメリカ山公園口へ下ります。逆の順に歩いても構いません。公式サイトの目安は、7館すべてで約2〜3時間、2〜3館ずつなら約30分〜1時間です。
館ごとの休館日
| 休館日 | 館 |
|---|---|
| 毎月第2水曜 | 山手111番館・エリスマン邸・ベーリック・ホール・ブラフ18番館 |
| 毎月第4水曜 | 横浜市イギリス館・山手234番館・外交官の家 |
休日の場合はどちらも翌日に振り替わります。年末年始(12月29日〜1月3日)は全館休館です。工事などで臨時休館することがあるので、出かける前に各館のページを見てください。7館すべてに入るなら、第2・第4水曜を避けます。
館内で知っておきたいこと
横浜市イギリス館を除く6館は、備えつけのスリッパに履き替えて見学します。館内での飲食はできず、休むなら外交官の家の「ブラフガーデンカフェ」、エリスマン邸の「Café Ehrismann」、山手111番館の「Cafe the Rose」の3つの喫茶室です。駐車場はなく、公共交通機関か近くの有料駐車場を使います。ベビーシートは横浜市イギリス館・山手111番館・山手234番館・エリスマン邸にあり、ほかの館でも職員に声をかければ授乳などのスペースを貸してもらえます。
写真については、7館共通の「撮影について」のページが「記念写真程度をお楽しみいただけます」としています。ところが外交官の家・ブラフ18番館・ベーリック・ホール・横浜市イギリス館の各館ページには、館内での写真撮影を遠慮するよう求めるお知らせが載っていて、どちらが今の運用かは未確認です。現地の案内に従ってください。公園や庭園の一定の場所を一時的に占用する撮影は、プロ・アマを問わず横浜市の事前の許可が要ります。
7館を2日に分けて回るなら、宿は楽天トラベルの元町・中華街駅周辺のホテル・旅館の一覧PRで探せます。
編集部の考え
山手の7館は、家具や資料を並べた展示施設というより、住まいとして建った家に今も季節のしつらえを入れ続けている場所です。月見のテーブル、2001年から続く花と器の食卓、ローズガーデンのバラの話を、館の人たちはブログに短く書き留めています。入館が無料で、どの館も公園の中にあるので、7館を一度に回るより、季節を変えて同じ家を訪ねる見方がこの場所には合っていると思います。