みんぱく(国立民族学博物館)の館長あいさつは、世界のグローバル化の話を15世紀の大航海時代から書き起こしています。そこで最初に挙がるのがアメリカ大陸で、「ヨーロッパ人に征服されたアメリカ大陸の先住民」が強制労働と外から持ち込まれた病気で人口を急に減らした苦難に触れています。書いたのは館長の関雄二さんで、南米の古代文明を扱う『アンデスの考古学』(同成社)の著者でもあります。
同じあいさつは、その一方で世界各地の人びとが移動手段や情報機器を使いこなし、「独自の文化を創造してきた」ともあります。そのうえで、いま求められているのは「人類全体、地球全体を視野におきつつ、個別の文化と社会の存在を認めていく態度」だと続けます。
本館のアメリカの展示の案内も、同じ二つの面から書かれています。極地から熱帯雨林まで広がる大陸で、人びとはそれぞれの環境に合わせて暮らしてきましたが、「ヨーロッパ人による征服と植民の歴史」を経て、日常の隅々まで外来の文化が入り込みました。展示は衣・食・宗教に焦点をあて、土着の資源に「現代的価値を見いだそうとする芸術家や工芸家」の仕事も紹介しています。区分は「出会う」「食べる」「着る」「祈る」「創る」の5つです。

写真の、幾何学模様と顔の彫刻を刻んだ円盤は、メキシコのアステカの暦石のレプリカです。本館展示の観覧料は一般780円、大学生340円、高校生以下は無料で、休館日は毎週水曜(祝日なら直後の平日)と年末年始です。行き方はみんぱくの行き方と観覧料の記事に書きました。
トウモロコシとチチャの売り子
館の解説によると、トウモロコシは中米で栽培化され、先史時代にアメリカ大陸全域へ広がりました。食べ物としてだけでなく南米では酒の原料になり、先史時代から今日まで酒は儀礼で大事な役を果たしてきたといいます。いまはバイオ燃料としても利用されます。

写真は、チチャ(トウモロコシの醸造酒)づくりに使うボリビアの圧搾具です。主な展示品の「チチャ売り」は、ペルー・チュルカナスのサントディオ・パスが1993年に作った売り子の像で、左手にひょうたんの杯、右手にひしゃくを持っています。甕全体が、甕から酒をくむ女性の姿になっているのが面白いところだと館は書いています。
村ごとに違っていた衣装
「高地マヤの衣装」(グアテマラ、1993年収集)の解説によると、女性たちが腰機で織った布を使う衣装は村ごとに違っていました。いまは着る人が減り、トドス・サントスのように男女の衣装がそろう村は数えるほどになったといいます。

写真はケチュア族(ボリビア)の帽子で、刺繍とスパンコールで飾られています。ブラジル・サンパウロ市の「カーニバルの衣装(旗手)」(1995年収集)も並びます。カーニバルは2月ごろのキリスト教の移動祝日で、リオではアフリカ系の歌と踊りを取り入れてサンバが生まれました。旗手はサンバ・チームの旗を持ち、踊りながらパレードを先導する役です。


聖母マリアと見なされる地母神
主な展示品の祭壇「パチャママの門」は、ペルー・クスコ県のフアナ・メンディビルの作品で、1998年に収集されました。まつられているのは、聖母マリアと見なされるアンデスの地母神パチャママです。先住民の信仰とキリスト教が融合した形をとり、山の幸、海の幸、雪山、コンドルなどの造形がアンデスの宗教世界を組み立てています。


右の写真は、メキシコ市の木彫「グアダルーペの聖母」です。
メキシコの骸骨人形「酒場で興じるトランプ遊び」は、ミゲル・リナーレスが1985年に作りました。メキシコでは砂糖菓子やおもちゃ、飾りに骸骨がよく使われ、とくに11月2日の死者の日のころには街にあふれます。解説には、死は日常生活の一部であり、親しみ深いものだという死生観にもとづく、とあります。オアハカ州の木彫「ナワル」(2010年収集)は、動物に変身する力を持つ人や人を守る動物霊を指す民間信仰のナワルを、ヤギに変身した姿で彫ったものです。
極北の石のランプと版画
カナダのイヌイットの石のランプも展示されています。同じイヌイットの衣装は、カリブー(野生トナカイ)の毛皮で作ったパルカで、零下30度以下の寒さから身を守れると解説にあります。

版画「すべてを見わたすフクロウ」は、ケノジュアク・アシェバクの1975年の作品です。イヌイットの版画は1957年からケープ・ドーセットで作られ始め、日本の浮世絵のやり方を取り入れて洗練されていきました。題材は伝統的な世界観や極北地域の動物、狩猟生活、人間関係などです。ホピ(アメリカ合衆国)の銀細工「生まれいずる」(2010年制作、ジェロ・ロマベンティマ)は、火と水と氷で過去3つの世界が浄化され、人びとは大地の裂け目(グランドキャニオン)から巨大な葦をつたって今の世界に来た、というホピの神話を描いています。
12月19日のみんぱくゼミナール
2026年12月19日(土)13時30分から15時まで、本館のみんぱくインテリジェントホール(講堂)でみんぱくゼミナールが開かれます。講師は国立民族学博物館准教授の市川彰さんで、案内文には、先人たちも深刻な環境変化と向き合ってきたとして、多様な自然環境のなかに暮らした古代メソアメリカの人びとの知恵を探る、とあります。
参加費は無料で、申し込みは要りません。当日13時から会場前で受付・開場し、定員は会場参加400名です。オンライン配信はありません。展示も見るなら観覧券が要ります。手話通訳を希望する人は、11月27日(金)までに館に伝えます。
土曜の午後の講演に遠くから来て、翌日に本館や公園を回るなら、宿は楽天トラベルの千里中央駅周辺のホテル・旅館の一覧PRで探せます。千里中央駅は、行き方の記事で書いた御堂筋線からモノレールへの乗り換えの駅です。
市川さんは、シリーズ「古代文明を学ぶ」の一冊『メソアメリカ文明ガイドブック』(新泉社)の著者でもあります。講演の前に目を通しておくなら、Amazonの『メソアメリカ文明ガイドブック』のページPRから取り寄せられます。
編集部の考え
館長のあいさつは、征服がもたらした苦難と、そのあとも各地の人が自分たちの文化を作ってきたことを、一つの文章の中で両方書いています。聖母マリアと重ねてまつられるパチャママの祭壇には、その両方が一つの形になって残っています。古い文明の品だけでなく、20世紀の終わりから最近までに作られた祭壇や人形、版画、銀細工を同じ展示場に置き、作り手の名前まで添えています。