2025年12月4日、みんぱく(国立民族学博物館)の館長室だよりに短い報告が載りました。館で開かれたミンパク オッタ カムイノミに、平取アイヌ協会、平取アイヌ文化保存会、千歳アイヌ協会の人たちが来た、という内容です。本館のアイヌの文化の展示には、平取町二風谷で作られた盆や帯、木彫が並んでいます。作品と同じ町の人たちが、館での催しのために足を運んでいます。
この秋は、2026年9月25日から12月15日まで、特別展示館で特別展・令和8年度アイヌ工芸品展「沙流川に生きる――サルンクㇽの近代」が開かれています。関連の講演会や映画会の多くで話し手や解説を務めるのが、准教授の齋藤玲子さんです。北海道立北方民族博物館の学芸員を経て2011年に民博へ移り、アイヌの工芸の変遷を研究しています。館のページに載る研究の説明で、齋藤さんは、工芸と観光は技術や知識を受け継ぐ手段であるとともに、「民族文化の現代的表現であり、経済的自立の可能性を持っている」と書いています。観光客に向けて作られた木彫りや工芸品も、文化を受け継ぐ道筋の一つとして見る、という考え方です。
館までの行き方と本館の観覧料は、みんぱくの行き方と観覧料の記事にあります。
差別の歴史から書き起こす本館の展示
本館の地域展示は、朝鮮半島の文化、中国地域の文化、中央・北アジア展示と進んだ先にアイヌの文化の展示があり、その次が最後の日本の文化の展示です。アイヌの文化の展示は1979年11月に一般公開されました。いまは「アイヌとは」「カムイと自然」「現代そして未来」の3つの区分に分かれています。
館の解説は、アイヌを、北海道を中心に日本列島北部とその周辺で、寒さの厳しい自然のもとで独自の文化を育んできた先住民族だと紹介します。そのうえで、江戸時代に幕府による支配が始まり、明治時代に同化がすすめられると、アイヌは差別を受け生活に困るようになったと書いています。近年は日本政府がその歴史的事実を認め、アイヌ民族を尊重した政策に取り組み始めたとも記しています。展示が見せるのは、伝統を受け継ぎながら新しい文化をつくる人びとの姿です。


100年以上前に集められた首飾りと仮面
館が主な展示品として挙げるものには、古い資料が多く入っています。1903年に収集された首飾りは、女性が盛装のときに着け、宝物として受け継がれてきたものです。ガラス玉は交易で入り、中国大陸産のものが樺太経由で北海道に届き、18世紀後半になると本州産のものが多く出回るようになったと解説されています。

千島の色丹島の仮面は、1899年に民族学の先駆者・鳥居龍蔵が収集したもので、アイヌの仮面として知られる世界で唯一の資料です。熊送り用祭壇模型は複製で、もとの資料は損傷があって組み立てられませんでした。それをアイヌ文化伝承者育成事業の研修生たちが調べながら作り直し、2011年に仕上げています。

名前の分かる作り手の木彫と盆
同じ展示には、名前の分かる作り手の作品も並びます。木彫「藤戸タケ像」は藤戸竹喜(1934-2018)が1992年に彫ったもので、モデルは祖母です。藤戸は父のもとで12歳から熊を彫り始め、1969年に阿寒湖畔の寺に観音像を納めたのを機に作風を広げました。作品を初期から最晩年までたどるなら、生誕90年記念展の図録『藤戸竹喜作品集 キムンカムイに導かれ』があり、Amazonの『藤戸竹喜作品集』のページPRで扱っています。
貝澤徹(1958-)は、先人の残した民具や儀礼具から刺激を受けて、新しい木彫に取り組んできました。展示の「アイデンティティ3」は、2015年に平取町二風谷で作られています。二風谷のイタ(盆)とアットゥㇱ(樹皮繊維製の布)は、2013年に経済産業省の伝統的工芸品に北海道で初めて指定されました。展示の盆は貝澤守(1965-)、帯は藤谷るみ子(1948-)の作品です。齋藤さんの言う工芸の「現代的表現」は、こうした作品に当たります。


特別展「沙流川に生きる」の観覧料と催し
主催は国立民族学博物館、公益財団法人アイヌ民族文化財団、北海道博物館です。「サルンクㇽ」は、沙流川流域に暮らす人びとを指すアイヌ語です。日高山脈に源を発し太平洋に注ぐ沙流川の流域では、古くから多くのアイヌ民族が暮らしてきました。会場には、この流域で集められた工芸品のうち、作り手・使い手が明らかなものが、写真や文書、子孫の言葉とともに並びます。
観覧料は一般1,200円、大学生600円、高校生以下無料です。20名以上の団体、3か月以内のリピーター、満65歳以上は一般810円・大学生340円になります(証明書等が必要)。この券で本館展示も見られるので、両方を見るなら特別展の券だけで足ります。障がい者手帳を持つ人は、付添者1名とともに無料です。大学生と一般は、万博記念公園の各ゲートでみんぱくの観覧券を買えば、公園の中を無料で通れます。開館は10時から17時(入館は16時30分まで)、休館日は毎週水曜日(祝日の場合は直後の平日)です。11月14日・15日の無料観覧日は、本館展示と企画展「トレス海峡(ゼナドスケス)と日本」が対象で、特別展は有料です。
会期中の催しのうち、齋藤さんが関わるものは次のとおりです。申し込みの要否は特別展のページで確かめてください。
| 日 | 催し | 齋藤さんの役 |
|---|---|---|
| 10月3日(土) | 友の会講演会「東京でアイヌ家屋を建てたサルンクㇽ」 | 講師 |
| 10月25日(日) | ウィークエンド・サロン「沙流川の人びととみんぱく」 | 話者 |
| 11月14日(土) | みんぱく映画会「Ainu|ひと」(1日2回) | 解説 |
| 11月21日(土) | みんぱくゼミナール「沙流川のほとりで暮らす縁を大事にする」 | 講師(平取町立二風谷アイヌ文化博物館館長の長田佳宏さんと) |
| 12月12日(土) | 「民族文化映像研究所と萱野茂――初期作品を振り返る」 | 司会(解説は萱野茂二風谷アイヌ資料館館長の萱野志朗さん) |
10月17日(土)には、北海道博物館の大坂拓さんと民博のマーク・ウィンチェスターさんによるみんぱくゼミナール「沙流川からアイヌ史を考える」もあります。北海道など遠くから催しに合わせて来るなら、前の晩の宿は楽天トラベルの万博記念公園駅周辺のホテル・旅館の一覧PRで探せます。『月刊みんぱく』2026年9月号は特集「沙流川にて」で、本館1階のミュージアム・ショップで売っています。
編集部の考え
首飾りや仮面は、100年以上前に集められて館に収まった資料です。館長の関雄二さんは館長あいさつで、集めた資料を提供者の側と共有し直す取り組みに触れ、「文化を語るのは、もはや研究者だけでない」と書いています。沙流川の特別展は、作り手と使い手の名前を明らかにし、子孫の言葉を添えて資料を並べています。古い資料と、2015年に二風谷で作られた盆とを、同じ館の中で続けて見られます。