一反木綿の「出身」は鹿児島県肝付町の旧高山町だと、肝付町観光案内所は紹介しています。旧高山町の波見や高山の地区には、夕方ひらひらと飛んできて人に巻きつくという言い伝えが残り、案内所は地域の聞き取りを記事にまとめています。肝付町内に鉄道は通っておらず、鹿児島空港からは鹿屋での乗り換え、鹿児島市方面からは鴨池・垂水フェリーを使うのが公式サイトの案内です。
1. 波見・高山地区で聞かれる話
肝付町観光案内所が2017年に公開し、2022年に更新した記事は、町内の住民への聞き取りをまとめています。波見(平後園)地区では「子どものときは、遅くまで外にいるといったんもめんが出るぞ」と脅された経験を、80代の男性が語りました。高山地区では、四十九所神社の裏にある城山で「螺旋状にくるくるとまわりながら飛んでいた」という話が、町役場周辺の麓地区の住民から伝わっています。城山はかつて山城が築かれていた場所です。
一方、川上地区・内之浦地区・岸良地区で話を聞いた人は、いったんもめんは聞いたことがないと答えています。川上地区では代わりにカッパの話が伝わり、夕方遅くまで外にいると「マン」が出ると脅されたそうです。内之浦地区でも「メン」が出ると脅されたといい、岸良地区では「かっぱと相撲をとって怪我をしたという人なら見たことがある」という90代女性の話が残っています。「マン」「メン」は大隅地方の方言で幽霊・おばけを指す言葉です。郷土史家の海ケ倉喜通さんの調査では、言い伝えは波見から上流の肝属川沿いに分布し、有明地区や後田地区(川上地区を含む)には伝わっていませんでした。隣接する鹿屋市串良や東串良に伝わっているのは、波見の人が嫁ぐなどして交流があったためだと海ケ倉さんは説明しています。串良の岡崎地区では「権現山からいったんもめんがくるよ」と子どもを脅していたといい、権現山は肝属川の河口近く、波見地区に立つ山です。
2. 郷土の記録と、柳田國男の「妖怪名彙」
肝付町観光案内所は、柳田国男の依頼を受けて肝付町(旧高山町)出身の教育者・野村伝四が家族や親戚から方言を聞き取って著したという「大隅肝属郡方言集」と、「高山郷土誌」の記述を紹介しています。「大隅肝属郡方言集」は「イッタンモンメン」を「長さ一反もある木綿の様な物がヒラヒラとして夜間人を襲う」お化けと説明し、「高山郷土誌」は波見や池之園で、夕方うすぐらくなるころに人間の頭や首に巻きついて息の根をとめると伝えています。
年代の分かる記録としては、国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースに、柳田國男が1938年(昭和13年)9月20日発行の『民間伝承』4巻1号(通巻37号)に発表した論文「妖怪名彙(四)」の項目があります。地域は鹿児島県肝属郡肝付町とされ、「一反木綿の形をしたものが現れて、夜間にひらひらとして人間を襲う」と要約されています。
3. 正体は人魂か、白旗か
正体については諸説あり、肝付町観光案内所は墓の周りに立てた長い白旗という説も紹介していますが、海ケ倉さんは「一般的に人魂と呼ばれている燐火でしょう」とみています。戦時中は灯火管制で夜が真っ暗だったため燐火をよく見かけ、長く尾をひくものもあったといいます。白旗のような長い布が山の中を飛ぶのは木に引っかかりやすく難しいという見方も、人魂説を後押ししています。一反(着物一着分の反物)の長さは種類や産地で差がありますが、だいたい12.5メートルほどです。
波野地区の聞き取りでは、昔疫病が流行したときに荒瀬の山中に大きな穴を掘って遺体を埋め、近づいてはいけないとされていたといい、いったんもめんはその穴から出てくる人魂のことだと聞いたという話も残っています。地区によって理由の語られ方は違いますが、暗闇の中で長く尾をひく光を見たという点は共通しています。
4. 四十九所神社と城山の流鏑馬
城山の言い伝えが残る高山地区には、伝承に登場する四十九所神社があります。肝付町観光案内所によると、肝付氏の祖・伴兼行がこの地に派遣された際、伊勢神宮から分霊を受けて984年(永観2年)に創建したと伝わります。ここに合祀する祭神の総数が49柱であることが社名の由来です。毎年10月第3日曜日には、県指定無形民俗文化財(1981年3月27日指定)の「流鏑馬」が奉納され、射手は町内の中学2年生から選ばれます。2021年5月には拝殿が再建されました。住所は鹿児島県肝属郡肝付町新富5580で、駐車場は境内脇の空き地を使います。


5. 境港のゲゲゲの広場には一反もめんの雲梯
『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげるの出身地、鳥取県境港市のJR境港駅前には、2024年春に完成した「ゲゲゲの広場」があります。境港観光協会によると、広場には目玉おやじの茶碗型スプリング遊具と並んで、一反もめんをかたどった雲梯(うんてい)が置かれています。駅から東へ約800m続く水木しげるロードには妖怪のブロンズ像が並びますが、一反木綿の像があるかどうかは確認できませんでした。肝付町が「出身」の土地なら、境港は漫画で広まった姿の一反木綿を見られる町、という違いになります。
6. 肝付町への行き方
肝付町内に鉄道の駅はありません。肝付町観光案内所によると、鹿児島空港から肝付町内へ直行するバスはなく、空港連絡バス「牧之原・百引・鹿屋線」で鹿屋(リナシティかのや前)へ出て、そこから路線バスに乗り継ぎます。所要時間の目安は、鹿屋まで1時間25分〜40分、高山(肝付町役場本庁舎前)まで2時間〜2時間15分(乗り換えの待ち時間は含みません)。便数が限られるため、観光目的なら空港か鹿屋でのレンタカーを勧めるともしています。鹿屋に泊まって朝から動くなら、宿は楽天トラベルの鹿屋・垂水・志布志のホテル・旅館の一覧PRで探せます。
車なら、鹿児島市の鴨池港から垂水港へ渡る垂水フェリーが早道です。肝付町観光案内所によると、乗船時間は40分、垂水港から高山エリアまでは約55分です。鹿児島交通の時刻表では、通常ダイヤは平日19便、土曜・日曜・祝日は23便です。鹿児島中央駅と鹿屋を結ぶ直行バスもこのフェリーを使っていて、鹿屋市の案内では定員40人・予約不要です。肝付町観光案内所の目安は、鹿児島中央駅から鹿屋まで2時間00分、乗り継いで高山までは2時間35分。フェリーが欠航すると直行バスも運休します。
宮崎県や志布志市の方面からは、志布志港からの所要時間が目安になります。肝付町観光案内所によると、志布志港から高山エリアまで約40分、内之浦エリアまで約50分です。
7. 編集部の考え
一反木綿という名前は漫画で全国に知られましたが、肝付町観光案内所の記事に残っているのは、聞き取りに答えた住民の言葉です。地区によって伝わり方が違い、輪郭がぼやけているところがかえって伝承らしいと思います。城山や権現山など、話に出てくる場所は今も地図で確かめられるので、四十九所神社に立ち寄るついでに地名をたどってみるのも一つの楽しみ方です。