ルーマニアのマラムレシュ地方にあるサプンツァ村の墓地には、「陽気な墓」がいくつも立ち並んでいます。亡くなった村人の生前の姿を、ユーモアを交えた絵と物語で描いた墓で、中身は一人ひとりの個性に合わせてあります。みんぱく(国立民族学博物館)のヨーロッパ展示には、彫刻家スタン・ヨン・パトラシュが制作したその「陽気な墓」が、1997年の収集品として入っています。
この展示場の説明は、ヨーロッパの歩みから始まります。16世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパはキリスト教や近代の諸制度、さまざまな技術や知識を世界各地に移植しました。いまはその流れが逆転し、「世界中からの移民とともに、彼らの文化も社会の一部となりつつあります」。展示は、伝統的な暮らしと宗教、近代の産業化、現代の新しい動きが「層をなしてヨーロッパをつくりあげていること」を示すものだといいます。
ヨーロッパの展示は、館が1977年11月に開館したとき、オセアニアやアメリカ、アフリカなどの展示と一緒に最初に公開された展示の一つです。いまの区分は「生業と一年」「宗教・信仰」「産業化とともに」「変動するヨーロッパ」の4つです。館への行き方はみんぱくの記事にまとめています。遠くから来て開館から見るなら、前の晩の宿は楽天トラベルの万博記念公園駅周辺のホテル・旅館の一覧PRで探せます。
祭りのパンと仮装
館の「主な展示品紹介」の最初に載るのは、ドイツのフランケン地方のパン「バウアーブロート」の複製です。ライムギ6割、コムギ4割に天然酵母と岩塩と水だけで焼き、粉は石臼挽きで、1個が4キログラムあります。館の説明では、こうした伝統的なパンはいまも人気が高く、近年は通信販売でも売られています。薄く切って、ソーセージやピクルスをのせて食べるそうです。
オーストリアのチロル地方のカーニバルの仮面と衣装「シェラーとローラー」は、1981年の製作です。男性的なシェラーが冬を、女性的なローラーが春を表します。館はこれに、日本のなまはげに似た行事が東ヨーロッパから中部ヨーロッパに多く見られる、と説明を添えています。


板の代わりにガラスを使ったイコン
東方正教会では、イコンと呼ぶ聖画像を崇敬します。多くは板の上に聖母子像や救世主、聖人を描いたものですが、巡礼の記念として発達したガラスイコンは、板の代わりにガラスを使います。展示品紹介には、フレスキン・ヨアンが制作したルーマニアのガラスイコン「嘆きの聖母」が載っています。収集は1997年で、冒頭の「陽気な墓」と同じ年です。



分割払いで広まったミシン
19世紀半ば、アメリカの発明家I.M.シンガーが改良ミシンで特許を取り、分割払い制度を入れて販路をひろげました。展示品紹介に載っているのは、アイルランドのダブリンで1940年に作られたミシンです。
同じ紹介にあるポルトガルの煙突付きアイロンは、1987年の収集です。中に木炭を入れて使う道具で、煙突はその煙を避けるために付いています。この形のアイロンは、いまはアンティークとしても好まれているといいます。


移民が自分の生い立ちを語る映像
現代の動きとして、展示品紹介はまずEUのユーロ硬貨を挙げています。経済の統合をめざすEUでは、ユーロの紙幣はどの国でも同じですが、各国が出す硬貨の表には、それぞれの偉人や自然など国の象徴が刻まれています。
もう一つが映像「移民が語るライフストーリー」です。移民が、自分の生い立ちや国を離れた理由、移り住んだ社会での暮らしや家族、将来の夢を語ります。館の紹介には、「さまざまな地域からやってくる移民にも、それぞれのストーリーがある」とあります。
国家と民族を問い直す研究
みんぱくは1974年6月に、大学共同利用機関として創設されました。館長あいさつによると、館の研究者は世界各地でのフィールドワークを通して共同研究を重ね、その成果を論文などで発表するだけでなく、「展示という手法を通じて」公開してきました。総合研究大学院大学の博士後期課程も併設していて、研究と展示と教育を連動させた機関は「世界でも希」だと、あいさつにあります。
あいさつを書いた館長の関雄二さんは、ラテンアメリカで50年近く調査を続けてきた研究者です。いま館を代表する研究として進めているのは「ポスト国民国家時代における民族」で、国家と民族の関係を改めて多角的に分析し、共生社会の実現を展望するものだと説明しています。ヨーロッパの展示場には、国の象徴を刻んだ硬貨の展示と、国を離れた人が語る映像の両方があります。
関さんは同じあいさつで、「文化を語るのは、もはや研究者だけでないことは、なかば常識化しています」とも書いています。館はいま、50年近く集めてきた標本や映像を、資料を提供した人びとと共有して意味を問い直す「フォーラム型人類文化アーカイブズの構築」を進めています。
観覧料と開館時間
開館は10:00〜17:00で、入館は16:30までです。休館日は毎週水曜(祝日なら直後の平日)と、年末年始の12月28日〜1月4日です。本館展示の観覧料は一般780円、大学生340円、高校生以下は無料で、満65歳以上は年齢の分かるものを見せれば660円です。観覧料は現金のほか、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済でも払えます。障がい者手帳を持つ人は、付き添い1名とともに無料で見られます。万博記念公園のゲートで館の観覧券を買えば、公園の中を無料で通れます。本館展示の電子チケットはJTBレジャーチケットとアソビューで売っていて、購入日から30日間使えますが、キャンセルや変更はできません。
令和8年度の無料観覧日は、関西文化の日の11月14日と15日です。本館展示のほか、企画展「トレス海峡(ゼナドスケス)と日本」も無料になりますが、特別展「沙流川に生きる」は有料(一般1,200円、大学生600円)です。
館のサイトでは、2023年度に撮影したヨーロッパ展示場のパノラマムービーを公開しています。パソコンの画面で展示場をさまざまな角度から見られるので、行く前に並びを見ておくことも、帰ってから見返すこともできます。
編集部の考え
主な展示品の年を並べると、シェラーとローラーが1981年、煙突付きアイロンが1987年、「陽気な墓」とガラスイコンが1997年です。伝統の暮らしや信仰として並ぶ品の多くは、20世紀の終わりに作られたり集められたりしたものです。長く技術や制度を世界へ送り出してきた地域を、館はほかの地域と同じように、いまを生きる人の暮らしと、移民が自分で話す声から見せています。