桜海老の沖あがりは、豆腐とねぎを甘いたれで煮て、仕上げに生の桜えびを入れる鍋です。由比桜海老商工業協同組合が文化庁に出した申請の文には「簡単に言うと『すき焼き』の桜海老バージョンです」とあります。野菜は豆腐とねぎのほか好きなものでよく、生の桜えびは色が変わる程度にさっと煮れば出来上がりです。味付けは今ではすき焼き程度が主流で、溶き卵を入れて丼にする食べ方もあります。
漁の帰りを浜で待った家族の鍋
由比の桜えび漁は、明治27年に偶然大量に水揚げされたのが始まりです。組合の申請の文によると、当時は木造船で、魚群探知機も網を巻き上げるローラーもなく、漁師は夕方から翌朝まで沖にいました。浜で漁の安全を待つ家族は、沖に船の帰りが見えると火を焚き、豆腐とねぎを甘いたれで味付けた鍋を用意して、「沖から上がったばかりの高鮮度の桜えびを仕上げに入れて、大漁の祝いと同時に賄った」のが始まりと言われています。冷えた体と疲れを癒やすために、当時は砂糖をたくさん入れて甘く仕上げたと組合は伝えています。
この鍋を組合が「桜海老の沖あがり」として申請し、令和4年度の文化庁の「100年フード」に、近代の100年フード部門で認定されました。100年フードは、文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する取り組みです。
桜えびの漁は駿河湾だけ
静岡市の案内によると、桜えびの漁場は主に富士川沖と大井川沖です。ほかの海にも生息していますが、漁の対象になっている場所は日本では駿河湾だけで、獲れた桜えびは由比漁港と大井川漁港に水揚げされます。桜えびは日中は水深200m以下の深海にいて、夜になると上の層まで浮いてくるので、漁は夜間です。2そうの船で網をひく船びき網で、県知事の許可を受けた120隻60か統が操業しています。
漁期は年に2回です。静岡県漁業調整規則で産卵期の6月11日から9月30日が禁漁と決まり、漁業者が自主的に1〜3月頃も休むので、3月下旬〜6月上旬の春漁と、10月下旬〜12月下旬の秋漁に分かれます。漁は共同操業で、出漁日や日ごとの漁獲量を漁業者全員で決めています。
由比港漁業協同組合のページによると、桜えびは東京湾や相模灘にも生息していますが、漁の許可を静岡県だけが認めているので、国内の水揚げは100%駿河湾です。許可証を持つ船は由比・蒲原・大井川地区を合わせて120隻しかありません。
同じページには、駿河湾産と台湾産の違いを漁師の原剛さんが話した言葉があります。桜えびは体の表面に発光体を持ち、多いほど甘みと旨味が高く、その数が駿河湾産は160個前後、台湾産は100前後。「糖度計で計ってみても駿河湾産は甘いことがわかりますよ」と原さんは話しています。
秋漁は10月下旬から
この記事を書いている10月上旬は休漁の時期で、秋漁の始まりは例年10月下旬です。2026年の秋漁の解禁日は、静岡市と由比港漁協の公式では未確認です。
春の由比桜えびまつりは、2026年5月3日(日)の8時〜14時に由比漁港(静岡市清水区由比今宿)で開かれ、生桜えびの無料配布やかき揚げの販売がありました。当日は由比桜えび通り(JR由比駅〜由比川橋西側)が歩行者専用になり、漁港に駐車場はありません。主催は由比桜えびまつり実行委員会で、事務局は由比港漁業協同組合内です。来年については、漁協のページに「来年も開催できましたら」とあるだけで、日程は出ていません。
由比漁港の食堂と直売所
由比港漁協の食堂「浜のかきあげや」は2026年6月28日に閉店し、静岡県の案内では10月上旬に「由比漁港しずまえ食堂」として開き直す予定です。しずまえ食堂の公式サイトには、営業時間は桜えびの漁期中(4・5・11・12月)が9時〜19時、漁期外(1〜3・6〜10月)が11時〜19時、定休日は水曜日、住所は静岡市清水区由比今宿字浜1127、電話は054-903-9362とあり、名物として駿河湾産の桜えびのかき揚げを挙げています。開店日と、沖あがりを食堂で食べられるかは未確認です。
由比港漁協直売所は8時〜17時で、定休日は月曜・祝日の翌日・年末年始です。生桜えび(冷凍・200g)、素干し桜えび(30g)、ゆでしらす、生しらすを漁協の直売価格で売っていて、ネットショップもあります。桜えびは殻ごと丸ごと食べられて下処理が要らず、冷凍や半解凍のままでも料理に使えると漁協のページにあります。沖あがりの鍋にも、そのまま入れられます。名前の似た「桜えび沖漬け(冷凍・100g)」は鍋の沖あがりとは別の品で、由比の漁師が漁の終わった桜えびを夜の内に自家製タレに漬け込んだものです。
家で沖あがりを作るなら、楽天市場で由比の桜えびを探すPRとAmazonの検索結果PRで、由比の生桜えびや素干しを並べて見られます。
JR由比駅から歩く
由比漁港は、JR東海道線の由比駅から徒歩約10分です。直売所へは、由比駅から旧東海道を東京方面へ歩き、「由比港漁協入口」の看板を右折して国道1号の下をくぐり、港の中を左折して進んだ桜えびモニュメントの左側まで、徒歩約15分。車なら、国道1号の由比漁港交差点から港に入ってすぐ左側が直売所です。直売所の電話は054-377-1111です。しずまえ食堂は由比港駐車場が使えます。
編集部の考え
沖あがりの作り方は、由比の漁の形から出てきたものです。桜えびは夜に浮上するので漁は夜間で、明治27年のころは夕方に出た木造船が翌朝に帰りました。その帰りを浜で待つ家族が火を焚いて鍋を温め、揚がったばかりの生の桜えびを最後に入れた、と組合は伝えています。漁の対象になっている海は日本では駿河湾だけで、水揚げされる港は由比漁港と大井川漁港です。夜の漁と、船の着く浜が同じ場所にあったことが、組合の伝える賄いの始まりです。今も漁は夜間で、2そうの船で網をひく共同操業です。