祝いの席で客にそばを振る舞う「後段の蕎麦」という習慣が、飯豊連峰の南の裾野、喜多方市山都地区にあります。そのとき、もてなす側の人が「そば口上」を唄います。山都三大そばまつり実行委員会が文化庁に出した文では、そば口上は「蕎麦をほめる言葉におもしろおかしく節を付けて唄う」ものです。この地区のそばが山都そばで、製粉歩留りを7割以内に抑えた白っぽいそば粉を、つなぎなしで手打ちします。
文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する「100年フード」の令和4年度の認定で、山都そばは伝統の100年フード部門に入りました。申請したのは山都三大そばまつり実行委員会です。喜多方市のページによると、この年度は全国から90件の応募があり、70件が認定されました。福島県からは山都そばのほかに、うにの貝焼とラジウム玉子が同じ年度に認定されています。
歩留り7割以内の白い粉を、つなぎなしでこねる
実行委員会の文は、山都そばの色と歯ごたえを作り方から説明します。「つなぎを一切使わずに手打ちするため、白っぽく透き通った色合い」で、しこしことした歯ごたえがある、と。製粉歩留りは、製粉前の玄ソバの重さに対する、挽いたそば粉の重さの割合です。喜多方市のページと、市が案内先にしている「いいでとそばの里」(喜多方市ふるさと振興株式会社山都事業所)のページは、山都では歩留りを70%以内に定めているため、甘皮の色が入らず、他の地域より白っぽい粉になる、と同じ説明をしています。
白っぽい内層の粉は粘りが少なく、ふつうは小麦粉や山芋のつなぎが要ります。山都では湯ごねと水ごねを併用して、そば粉だけでこねます。職人でも難しいとされるこね方が、山都ではごく普通に行われている、と市のページにはあります。挽きたて、打ちたて、茹でたての三たてが基本で、製粉もそば打ちも家ごとに少しずつ違うそうです。
宮古地区の幻のそばが町の名前になるまで
いいでとそばの里のページは、山都そばの名前の始まりを昭和50年代に置いています。山都町商工会がむらおこし事業で着目したのが、飯豊山と、宮古地区のつなぎを使わない白っぽいそばでした。それまで幻のそばと言われていた宮古そばを、町全体の誇れる物として売り出した名前が山都そばです。
宮古地区は標高が高く米作りに向かないため、そばを多く常食にしていました。越後裏街道の筋にあり、行商で逗留する人には家で食べるそばより贅沢に挽いて振る舞っていた、と言われています。昭和30年代に県道工事が盛んになると、工事の関係者や県の職員が農家に頼んでそばを食べるようになり、その後、保健所に届け出て「予約での営業を始める農家が増え、今日に至ります」。歩留りを約70%とする約束事と、つなぎを使わないそば打ち、当時はそばの常設店がなかった町で年に一度は思う存分そばを食べてもらう新そばまつりの開催は、このむらおこしから続く取り組みです。
雪室そばと寒晒しそば
新そば以外の時期にも、山都では二つのそばがあります。雪室そばは、冬に積もった高密度の雪を約500トン入れた雪室で貯蔵したそばの実を挽いて打ったものです。雪の水分で室内は気温約5℃、湿度約70%に保たれ、梅雨の湿気と夏の高温による変質を抑えて、収穫期に近い風味を年間を通して保ちます。冷蔵庫ではそばの実が乾燥して劣化する、というのが雪室を使う理由です。
寒晒しそばは、大寒のころにそばの実をアッタ坂の清水に10日ほど浸し、引き上げてさらに20日ほど寒風に晒して乾かし、それを製粉して打ったそばです。市のページには、茹で上がりは真っ白で弾けるような感触になる、とあります。江戸時代に将軍家へ献上されていたと言われていて、実行委員会の文でも伝聞のままです。
三大そばまつりと、2026年の新そばの時期
山都町では年に3回、そばまつりがあります。市のそば課のページでは、夏に雪室熟成そばまつり、秋に新そばまつり、冬に寒晒しそばまつり。この3つが会津山都三大そばまつりです。
2026年の秋は、第43回山都新そばまつりが10月17日(土)と18日(日)、いずれも10時から15時まで、山都みちくさ通りで開かれます。そば長屋に出るのは山都そば処 萬長、飯豊とそばの里センター そば伝承館、会津山都そば道場 蕎道館、会津山都そば協会、KITAKATA役所のそば衆、高郷雷神そば打ち会で、チケットは1枚700円、かけそばともりそばが各1杯です。会場の特設ブースでは喜多方の地酒3種の飲み比べセットが500円で、こちらは現金だけです。
まつりのあと、10月19日(月)から11月23日(月・祝)までは、町内のそば店で新そばが出ます。提供の始まりは店ごとに違い、そば伝承館は10月20日から、宮古そば 大下は10月24日から。沼ノ平の福寿草会館では10月31日と11月1日の2日間だけ、山都沼ノ平そばが出ます。
新そばを出す町内の店
市の新そばまつりの案内に載る店は、山都そば処 萬長、元祖手打ちそば やまびこ、飯豊とそばの里センター そば伝承館、そばの里宮古 懐石そば かわまえ、宮古そば権三郎、宮古そば 大下、宮古そば処 とのやです。宮古の店は予約で営んできた農家の流れにあり、大下は2日前までの予約が要ります。権三郎の営業時間は11時から予約に応じて、とのやは11時から15時、かわまえは10時30分から14時(13時30分ラストオーダー)。萬長は11時から14時と17時から18時30分で火曜日が定休、やまびこは11時から15時で無くなり次第終了、木曜日が定休です。営業日も新そばの提供時期も店ごとに違うので、行く前に市のページか店で確かめてください。
そば伝承館とそば資料館
山都町沢田の飯豊とそばの里センターには、そば伝承館とそば資料館が並びます。伝承館では地元山都のそば粉100%の手打ちそばを出し、手打ちの実演と土産の販売があります。営業は10時から16時(15時45分ラストオーダー)、定休日は月曜日。資料館は山都そばと山都の歴史、飯豊山についての展示で、受付は9時から16時、定休日は月曜日(祝日なら火曜日)、入館料は高校生以上200円、中学生以下100円です。そば打ち体験は予約が要ります。月ごとの休館日はいいでとそばの里のお知らせに出ていて、2026年は8月と9月の分が載っています。
山都駅からの行き方
最寄りはJR磐越西線の山都駅です。市のページにある足は、山都駅から飯豊とそばの里センターまで車で約2分、会津坂下ICから約17分、西会津ICから約21分。駅から各店までの徒歩の時間やバスの便は未確認で、宮古地区の店は予約のときに行き方も確かめてください。
取り寄せ
いいでとそばの里のページには、そば伝承館で扱うそば粉と生そばのインターネットショッピングの案内があります。ページの表示は、雪室そば粉1kg(約8人前)が1,600円、生そば5人前つゆ付が2,850円で、どちらも税込み。生そばの賞味期限は3日です。買い方はいいでとそばの里の山都そばのページで見てください。
編集部の考え
山都では、祝いの席で客にそばを振る舞う「後段の蕎麦」のとき、もてなす側が、そばをほめる唄「そば口上」を唄います。そばを客に出してきたのは宮古地区の農家で、昭和30年代に県道工事の関係者を迎え、保健所に届け出て予約で営業する農家が増えました。2026年の新そばまつりの案内でも、宮古そば 大下は2日前までの予約、宮古そば権三郎は予約に応じた営業です。そば粉は歩留り7割以内まで挽き、つなぎを使わずに手打ちします。