上田市の多くの焼き鳥店では、焼き鳥と一緒にたれの入った器が出てきます。中身は、すりおろしたニンニクを入れた醤油のたれです。客はそれを、好きなときに好きなだけ串にかけて食べます。この食べ方は昭和30年代に上田のある店主が考えたもので、半世紀あまり名前がありませんでした。2010年に市民の有志が「美味(おい)だれ焼き鳥」と名づけています。
文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する「100年フード」では、令和4年度に未来の100年フード部門で認定されました。申請したのは、名づけた有志の団体、美味だれで委員会です。委員会の2023年3月10日のお知らせには、長野県内の認定3件のうちの1つで、やきとりとしては初の認定だとあります。
コップのたれと、かける器
この食べ方が生まれたころは、ニンニク醤油のたれを入れたコップがテーブルに置いてあり、客は焼き鳥をそこへ直接入れていました。串カツと同じで、二度付けは禁止でした。いまは器で出して、あとからかける店が多くなっています。上田駅の中にある「やきとり番長 上田駅ナカ店」は、コップのたれに付ける昔の食べ方ができる店として、信州上田観光協会の特集に載っています。
委員会が決めている美味だれの定義は、すりおろしのニンニクが入った醤油ベースのたれです。しょうがを足す店もありますが、委員会が公認するのは、風味も香りもニンニクのほうが強いものに限られます。その先は店ごとに違い、委員会が文化庁に出した認定の文には、創業のときから継ぎ足している店と、「信州名物のリンゴなどをすりおろしてまろやかに仕上げているお店」が出てきます。毎年冬に仕込んで寝かせる店もあります。
「おいだれ」は上田の方言
上田地域の「おいだれ」は、慣れ親しんだ仲間を呼ぶ言葉で、「おまえたち」の意味です。委員会はこの方言に「美味しいタレ」と、あとから追ってかける「追いかけるタレ」を重ねて、美味だれと名づけました。
名前が要ることになったのは、2010年に市民の有志がご当地グルメを探す調査をしたときです。上田の人にとって、焼き鳥店のたれがニンニク醤油なのは当たり前でした。ところが市外から来た人は、焼き鳥のたれと聞くと甘いたれを思い浮かべます。その年の秋、委員会は老舗の焼き鳥店を訪ねて歩き、「美味だれ焼き鳥」と呼んでよいかを各店の店主に尋ねて、許しをもらいました。
鳥正の宮下正三さんと、つづらや
この食べ方を考えたのは、焼き鳥店「鳥正」の初代店主、宮下正三さんだといわれています。委員会の公式サイトによると、昭和30年代の上田では、仕事帰りに焼き鳥店で過ごす人が多く、家で待つ家族への土産に焼き鳥を持ち帰るのも日常の風景でした。焼き鳥店が増えていくなかで、宮下さんが仲間と相談しながらこの食べ方を作り上げたという話です。新しく店を出す人は、たれの味を覚えるために修業に入ったり、通い詰めたりしたそうです。
鳥正は、委員会の店舗一覧では閉店と表示されています。観光協会の2022年4月の特集によると、宮下さんの娘さんと息子さんが昔からの味を受け継いで続けているのが「つづらや」です。たれは一度にたくさん仕込んで寝かせるので、少しずつ味が変わっていきます。特集には女将さんの言葉が載っています。「季節や気候によっても変わるので、同じように作っても微妙に違う味になります」。
上田駅から歩いて回る店
上田駅は北陸新幹線としなの鉄道、上田電鉄別所線の駅で、新幹線は「あさま」と「はくたか」が停まります。観光協会のモデルコースは、駅を出て3つの店を歩いて回ります。しなの鉄道と上田電鉄の自由通路にあるやきとり番長 上田駅ナカ店までが徒歩1分、そこからつづらやまで徒歩約10分、二代目鳥友まで徒歩約4分で、駅へは約10分で戻れます。二代目鳥友は、袋町で50年続いた焼き鳥店「鳥友」の2号店で、2018年に開きました。
委員会の店舗一覧には、このほかに、かわしま、やきとん こはまや、清さん、味勝などの名前があります。「閉店」と添えられた店も並んでいて、こはまやの項の最終更新日は2023年4月6日です。つづらやと二代目鳥友の営業時間は、委員会の一覧と観光協会の特集で食い違っています。いまの営業時間と定休日は未確認なので、行く日が決まったら店に電話で確かめてください。
東京方面へ帰る新幹線の最終は、JR東日本の駅の時刻表では上田駅22時02分発の「はくたか」です。平日も土曜・休日も同じ時刻に出ます。
焼き鳥店のほかでも食べられます。2024年9月のやきとりJAPANフェスティバルの発表文によると、昭和の全盛期に市内に60店舗以上あったやきとり店はいまは少なくなりましたが、居酒屋やスーパー、コンビニでも出されるようになりました。
たれを買って帰る
委員会の公式サイトの関連商品には、店やつくり手の名前のついた美味だれが並んでいます。とりDining SEASONの「秘伝 番長の美味だれ」、鳥友の「じんだれ」、おみやげ処 北村の「北村商店オリジナル美味だれ」、NPO法人 侍学園の「俺たちの美味だれ」などです。侍学園のたれは、生徒が育てたニンニクと地元産の醤油で作られています。
上田城の東側にある上田市観光会館(上田市大手2-8-4)の1階の売店は、4種の美味だれを売っていて、売店の通販サイトでも扱っている、と観光協会の2022年4月の特集にあります。売店は9:00から18:00までで無休、時間は季節によって変わります。いま売店に並んでいる種類は未確認です。
家で使う分を先に見ておくなら、楽天市場で美味だれを探すPRとAmazonの検索結果PRで、どの店のたれが出ているかを一覧で見られます。
編集部の考え
美味だれで委員会は、上田の人が半世紀あまり名前をつけずに食べてきた焼き鳥に、2010年に名前をつけた市民有志の団体です。その年の8月に有志が調査隊をつくり、秋には老舗の焼き鳥店を訪ねて歩いて、新しい名前で呼んでよいかを各店の店主に尋ねました。委員長はつづらやの店主、副委員長はかわしまの店主が務めています。食べ方を考えたといわれる鳥正は、委員会の店舗一覧で閉店と表示されています。委員会は、50年以上続いた地元の食文化が一世代の役割を終えていくなかで、「次の50年間、次の世代がその味を楽しみ続けるために必要な取り組み」を考えることを自分たちの役割に挙げています。2013年11月には、上田第二中学校で、かわしまの店主の指導による美味だれ作りが開かれました。