小田原駅から海のほうへ15分ほど歩くと、かまぼこの本店が並ぶ通りに出ます。小田原市観光協会がかまぼこ通りと呼ぶ本町の一角で、小田原蒲鉾協同組合に加わる店の多くは、この本町と隣の浜町に本店を構えています。小田原蒲鉾そのものは、文化庁が地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する100年フードに、令和3年度の伝統の100年フード部門で選ばれ、有識者特別賞も受けました。申請したのはこの組合です。
相模湾の魚と箱根・丹沢の水
認定の申請文は「小田原と言えば蒲鉾、蒲鉾と言えば小田原です」と始まり、相模湾の魚と箱根丹沢山系の水から作られる蒲鉾が、口伝えで全国に知られるようになったと続きます。
その魚は、組合の原料のページを読むと、時代で変わってきました。明治から大正にかけての小田原かまぼこは、相模湾のオキギスやクロムツ、イサキが主な原料でした。昭和に入って生産量が増えると地元の魚だけでは足りなくなり、西日本の底引き網で大量に獲れていたシログチを小田原まで運ぶようになります。戦後はスケソウダラの冷凍すり身が全国に広まり、小田原でもすり身の使用量が増えましたが、グチの使用量はいまも小田原が全国一です。
水のほうは、魚の肉を水にさらして油や血を除く、さらしと呼ぶ工程に使います。これを何度か繰り返してから余分な水を絞るのは、油を除くだけでなく、蒲鉾の弾力を増すためです。大量の水を使うので、水の性質がそのまま蒲鉾に出ます。カルシウムやマグネシウムを適度に含む、やや硬度の高い天然水で、組合のページには「この水とよい原料魚があって初めておいしい小田原蒲鉾ができるのです」とあります。
申請文にはもう一つ、正直なことが書かれています。「現在は、漁獲量も減り、他地域からの原料調達に依存をしていますが」、高い品質の蒲鉾を作るために伝統と技術の継承に努め、200年続く歴史を次の100年へ続けると結んでいます。
板に付けて蒸す白い蒲鉾
蒲鉾という名は室町時代の書物に出てきて、蒲の穂に形が似ていたからという説が、組合の歴史のページでも取られています。当時のかまぼこはいまの焼きちくわに近いもので、板に付けた蒲鉾も室町時代の書物にあり、蒸す蒲鉾が登場するのは江戸時代の終わりごろでした。江戸では焼き板がすたれて蒸し板ばかりになり、小田原式の白かまぼこは江戸好みの代表になります。小田原生まれの二宮尊徳が手土産に使ったことが、江戸末期の日記に残っています。
作り方は、主にぐち(いしもち)の肉を取り、天然の水でさらしてから石臼で塩を加えて練り、板に盛って約90℃の蒸気で蒸します。組合はこれを小田原蒲鉾十か条にも書き込み、板付け蒸し蒲鉾であること、小田原市に本社と自社工場を置くこと、小田原の蒲鉾業者として50年以上の歴史を持つことを組合員の条件にしました。十か条の前文には、小田原と言えば蒲鉾という評判には、地場産業という言葉だけでは説明し尽くせない重みと責任がある、という趣旨の一文があります。
組合に加わる店
組合は、明治時代の中ごろにできた小田原のかまぼこ屋の同業者の会が始まりで、昭和41年(1966年)12月10日に小田原蒲鉾水産加工業協同組合として発足しました。組合員が減ったいまは小田原蒲鉾協同組合の名で活動しています。小田原蒲鉾と小田原かまぼこは地域団体商標で、組合が商標登録した4つのマークは組合員の商品にしか付きません。
組合の組合員企業のページに載る店のうち、かまぼこ通りのある本町に本店があるのは、籠淸、杉兼商店、杉清商店、鈴松蒲鉾店、田代吉右衛門本店、山一蒲鉾店です。籠淸は創業以来190年で、素材も製法も昔のままと書き、田代吉右衛門本店は天明元年の創業で揚げたてや手作りの品を前に出しています。杉清商店は小田原漁港で水揚げされた原料のさつま揚げ、鈴松蒲鉾店は手づくりしんじょうと小田原焼を看板にしています。
浜町にあるのは伊勢兼商店、山上蒲鉾店、わきや商店です。山上蒲鉾店は明治11年の創業で、新鮮な生ぐちと丹沢・箱根山系の名水を掲げています。少し離れて、早川駅から徒歩1分の土岩商店と、小田急の風祭駅前に鈴廣かまぼこの里を構える鈴廣かまぼこ(創業は慶応元年)があります。営業日と時間は、行く前に各店の公式サイトで確かめてください。
小田原駅から海へ15分
かまぼこ通りの住所は小田原市本町3-7-17で、小田原駅から海方向へ歩いて約15分です。バスなら小田原駅から国府津駅行きに乗って青物町で、箱根方面行きなら幸町で降ります。小田原駅には東海道線、東海道新幹線、小田急線、大雄山線が乗り入れ、箱根登山電車もここから箱根湯本方面へ出ます。横浜から東海道線で来ても、新横浜から新幹線で来ても、降りる駅は同じです。
通りはかつて魚市場だった場所で、かまぼこ屋のほかに干物屋、鰹節屋、料亭、和菓子屋が並び、塀も囲いもなく歩けます。
お取り寄せと11月15日
小田原まで行く日がまだ決まっていないなら、楽天市場で小田原かまぼこを探すPRとAmazonの検索結果PRでは、上位に小田原の店の板付きの品や詰め合わせが出てきます。店の名前で探せば、本文に出た店の品が見つかります。組合のマークが付いているかどうかが、組合員の店の品を見分ける目安です。
11月15日はかまぼこの日です。全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会が定めた記念日で、蒲鉾の文字が載る、現在わかっている最も古い書物が永久3年(1115年)の祝宴の図であることと、七五三の祝いに紅白の蒲鉾を用意した習わしにちなみます。
編集部の考え
小田原蒲鉾は、相模湾の魚と箱根・丹沢の水で200年続いてきた板付きの蒲鉾で、組合に加わる店はいまも小田原駅の周りに本店を置いています。十か条は、板に付けて蒸すことと、本社と工場を小田原市に置くことを組合員の条件にしました。認定の申請文は、相模湾の魚が減って他の地域の原料に頼っていることを自分で書いたうえで、200年の歴史を次の100年へ続けると結んでいます。籠淸の190年、田代吉右衛門本店の天明元年、鈴廣の慶応元年、山上蒲鉾店の明治11年という創業の年は、どれもこの200年の中にあります。