西伊豆町の田子地区では、正月に、塩漬けして干したカツオにわら飾りを付けて玄関先や神棚に吊るします。吊るしているあいだの名前は「正月魚(しょうがつよ)」。三が日が過ぎると神棚からおろし、年神様の「おさがり」として食べます。文化庁の100年フードの認定の文には「家族の繁栄を祈念し、玄関先や神棚にわら飾りを付けて吊るし飾ります」とあります。
このカツオが西伊豆しおかつおです。文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する100年フードに、令和4年度の伝統の100年フード部門で認定されました。申請したのは西伊豆しおかつお研究会です。
塩に漬けて丸ごと干す
しおかつおは、カツオを丸ごと塩に漬け込み、乾燥させた塩蔵の乾干しです。常温で保存するために塩分が高く、認定の文では神事も兼ねた保存食と説明されています。古くからお吸い物やお茶漬けに、かつおの旨味のだしとして使われてきました。今の鰹節が出てくる前から使われていたことから、「かつおだしの始まりとも言われています」。
食べ方は、研究会のしおかつおの歴史のページに3つ出ています。三枚におろして好みの厚さに薄く切り、焼いてそのまま食べる。焼いた身をご飯にのせてお茶漬けにする。酢で塩を抜いて酢の物にする。同じページには「食べ方を間違えなければ」おいしく食べられる、という一言が添えてあります。
漢字では塩鰹とも潮鰹とも書きますが、研究会の説明では全く同じ物です。古くからの表記は塩鰹で、ただ塩にしたカツオと受け取られることや減塩ブームを意識して潮鰹を使う店があり、商標登録にも潮の字が使われました。
正月魚は町の民俗文化財
西伊豆町は2017年11月22日、正月魚を民俗文化財(風俗慣習)に指定しました。町の文化財総覧には、田子地区で航海安全と豊漁豊作・子孫繁栄を祈り、塩鰹にわら飾りを付けて正月に神棚へ供える風習として載っています。三が日を過ぎると神棚から降ろし、関係者に振る舞ったり、保存食として家庭で食べたりします。
同じ総覧には、田子地区の船員への雇用の証しとして、年の初めの契約の品に使われたことも書かれています。しおかつおは神棚の供え物であると同時に、漁師町の約束の品でもありました。今、作られているのは全国で田子地区だけです。
奈良の都に送られた塩蔵品から
由来の説明は、二つの資料で時代の置き方が違います。認定の文は、原型を約1300年前の奈良時代までさかのぼると書きます。研究会の歴史のページは推定の形で、税として奈良の都の平城京に送られたカツオの塩蔵品が原型だと思われる、とあり、田子地区で保存食として作り続けられるようになったのは江戸時代からと、文献を挙げて書かれています。
田子はかつて「かつおのまち」と呼ばれ、認定の文では、カツオの漁師町として千年以上の歴史があります。研究会のページでは、田子港は以前、良質のカツオがたくさん水揚げされ、鰹漁で栄えた漁師町です。しおかつおは、その田子に古くから伝わる加工の方法をもとに、今も作られています。
減塩志向で減った作り手
研究会のページには「現代の食生活では、減塩志向ということも有り」食べる人が減り、たくさん作らなくなった、とあります。今作っているのは地元で3社だけです。研究会は2009年7月に有志の会として立ち上がり、しおかつおうどんを中心に、しおかつおを食べたい人・見たい人・作りたい人を増やす活動をしています。
しおかつおうどんを出す店
西伊豆しおかつおうどんは、ゆでたての熱いうどんに、しおかつおの焼き身、ごま、海苔、わかめをふりかけ、鰹節と刻みねぎをまぶして、隠し味に出し醤油を少し入れて混ぜる麺です。温泉玉子をのせます。認定の文には、うどん等が地元の飲食店や催しで出され、観光で訪れた人にも人気のメニューとあります。研究会は地元の飲食店や居酒屋のほか、観光のドライブインやホテル・旅館の献立にも広げる営業を続けています。
研究会の店の一覧には、西伊豆のほか沼津・三島、東京、大分の店まで載っています。田子地区にあるのはさかなや食堂(西伊豆町田子1603-5)で、うどん・そばのほか、しおかつお料理各種を出します。営業は10:30〜19:00、火曜が定休です。堂ヶ島の漁師蔵レストラン 魚季亭は小松観光センターのお食事処で、メニューは「漁師めし 塩鰹茶漬け定食」。8:00〜16:30の営業で定休日はありません。仁科のはちのすは17時から24時までの夜の店で、塩鰹そばめしとしおかつおうどんがあり、水曜が定休です。営業時間は研究会の一覧に載っていた時点のもので、行く前に店に確かめてください。
田子へは東海バスで
田子のある西伊豆町へは、東海バスの西伊豆特急・快速バスが走っています。三島駅と伊豆長岡から松崎までが特急バス、修善寺駅から松崎までが快速バスで、どちらも乗り換えなし、特急料金は要りません。路線バスなので座席の予約はできません。三島駅と松崎の間は貸切や高速バスにも使う大型観光バスで、全席がリクライニング付きのハイバックシートです。時刻表は2026年10月1日改定の PDF が東海バスのページにあり、田子や堂ヶ島に止まる便と所要時間はそこで確かめてください。事前に買っておける飛び乗りチケットも売っています。
取り寄せるなら
しおかつおは一本ものの保存食で、楽天市場で西伊豆のしおかつおを探すPRと、上位には西伊豆町のふるさと納税の返礼品も並びます。Amazonの検索結果PRにも出てきます。製造元の直販や公式の通販があるかは未確認です。
編集部の考え
田子のしおかつおは、食べ物であると同時に、正月に神棚へ吊るす供え物で、船員の契約の品でもありました。町が2017年に民俗文化財に指定したのは、塩鰹そのものではなく、わら飾りを付けて神棚に供える風習のほうです。作り手は減塩志向で地元の3社まで減り、全国で作っているのは田子地区だけになりました。研究会は2009年にうどんで広める会を立ち上げ、100年フードの申請も研究会が出しました。