北信地域では、小麦を粉にしてつくる料理を昔から「粉もの」と呼んできました。長野市はこれにそばを加え、そば、おやき、にらせんべい、おぶっこ、すいとん、こねつけを「長野市の粉もの文化」の名前で申請し、令和7年度、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化として、文化庁の100年フードに認定されました。部門は伝統の100年フード部門で、申請したのは長野市でした。
米を毎日は食べられなかった土地
長野市は中山間地域が多く、稲作に向きませんでした。市が文化庁に出した認定の文には「古くより米を節約し小麦やそば等の雑穀を活かす知恵が生活に根付いてきました」とあります。
農林水産省「うちの郷土料理」のにらせんべいの項によると、北信地域の山間部は急傾斜の畑が多く、水田はわずかで、米の代わりに麦を多く栽培していました。千曲川流域の平坦地でも、水田の裏作は麦が中心です。米を節約するために、粉の料理が毎日の食事を担いました。同じ「うちの郷土料理」のおやきの項には、山間地では1日1回は粉を使った食事をつくって食べたといわれる、とあります。
灰で焼いたおやきが、町で蒸かすおやきになった
おやきは、小麦粉やそば粉を水か湯で練って薄くのばした皮で、あんや季節の野菜を包んで焼いたものです。具は、なす、きのこ、かぼちゃ、切干大根などを味噌や醤油で味付けします。発祥は上水内郡の西山地域といわれています。信州おやき協議会のページによると、西山は現在の小川村から中条村、信州新町、長野市の七二会、芋井、戸隠、鬼無里あたりまでを指すことがあり、昔からの畑作地帯です。
西山では、ほうろくという鉄の鍋で表面を焼いてから囲炉裏の灰の中で蒸し焼きにし、付いた灰を落として食べました。これが灰焼きおやきで、以前はこちらが主流でしたが、里から町へ伝わるうちに、蒸す、焼いて蒸す、蒸して焼くといった作り方が生まれます。協議会のページでは、善光寺平は蒸かすか、焼いて蒸かす形のものが多く、丸なすのおやきが伝統です。いまは灰の中に入れて焼くことが衛生上から禁止されていて、焼く店は囲炉裏の火回りの渡し(鉄製の網)やほうろくを使います。協議会の作り方のページには「これがおやきの正しいつくり方、というものはありません」とあります。
北信地域では、お盆におやきが欠かせません。8月1日を「石の扉(いしのと)」といい、朝から墓掃除をしておやきをつくり、8月14日の朝には仏前に供えます。
戸隠のぼっち盛りと善光寺の門前そば
戸隠そばのはじまりは、戸隠山の山岳信仰で修行僧たちがそばの実をすりつぶし、湯で溶いて食べたのが広まったといわれています。そば切りが伝わったのは江戸時代です。盛り方は、水を切らないまま麺を5束程度に分ける「ぼっち盛り」で、ざるには戸隠産の根曲がり竹を使います。束の数は、戸隠神社が五社あることに由来するともいわれています。打ち方は、一本棒・丸伸ばしと呼ぶ古くからの方法です。
善光寺界隈のそばは、認定の文では旅人をもてなす「門前そば」です。門前そばを出す店をまとめた公式の一覧は未確認です。
にらせんべい、こねつけ、おぶっこ
にらせんべいは、水で溶いた粉に刻んだにらを入れて焼いたものです。こうした焼きものは「せんべい」や「うす焼き」と呼ばれ、畑仕事の合間に食べる「おこびる」や子どものおやつにつくられてきました。にらは雪の積もる冬以外いつでも収穫でき、どの家でも庭先に植えていました。
こねつけは北信・東信地域に伝わる料理で、ご飯と小麦粉を混ぜてこねて焼き、味噌だれや醤油だれを付けます。余ったご飯をむだなく食べる工夫から生まれました。
おぶっことすいとんは、長野市のページでは一つにまとめて「心も体も温まる、具だくさんの煮込み料理」です。おぶっこの中身は、道の駅 中条を運営する会社の発表にあります。長野市中条地域に伝わる料理で、信州みそをベースに、たっぷりの野菜とコシの強い平打ちの太麺を一緒に煮込みます。名前は、放り込むことをいう方言の「ぶっこむ」から来ているといわれています。
農林水産省「うちの郷土料理」の長野県のページには、おやき、にらせんべい、こねつけ、手打ちそばの項があり、それぞれ材料と作り方が載っています。おぶっことすいとんの項はありません。
認定の日付と市の催し
長野市のページでは、認定は令和8年2月27日付けです。担当は農林部農業政策課の農業戦略企画室で、3月19日には市役所第一庁舎の展示サロンで認定記念フェアを開きました。おやき、そば、おぶっこなどを限定で売り、販売実績は粉もの関連商品2,178点でした。
市は令和8年度の催しとして、6月〜11月に月1回程度の「ながの粉もの市」と、善光寺表参道秋まつりと連携する「ながの100年フード秋まつり」を挙げています。どちらも予定で、予告なく変わることがあると市は断っています。
認定の文には、郷土料理教室や学校給食での学びを通じて受け継ぐ努力をしている、とあります。にらせんべいは、保育園などの給食にも出ています。
おやきとそばを食べられる所
善光寺の門前では、信州おやき協議会の加盟店の「門前農館 さんやそう」が、地元農家のお母さんたちがつくる蒸かしたおやきを出しています。「丸八たきや」は皮に焼き目を入れたおやきで、善光寺仲見世店と本堂西側のたきや西店で売っています。長野市は、認定記念のロゴ入りシールを貼った商品を市内の協力店舗で売る取り組みをしていて、いろは堂、信濃製菓、ふきっ子おやき、元祖信州おやきなどが入っています。
戸隠では、そば屋のほかに宿坊でもそばを出していて、長野県公式観光サイトによるとその数は20店舗以上です。ながの観光netに載っている店では、「戸隠そば山口屋」が10:30〜17:00(そばがなくなり次第終了)、「そばの実」が11:00〜16:00で木曜日と第2金曜日が休みです。そば打ちを体験できる「戸隠そば博物館とんくるりん」の営業期間は4月上旬〜11月末です。
おぶっこは、長野市中条にある道の駅 中条の食事処「まめったい」で食べられます。道の駅では冷凍の商品も売っています。
長野県公式観光サイトには、おやきの取り寄せをしている店が県内に数多くある、とあります。行く前に品を見ておくなら、楽天市場で長野のおやきを探すPRとAmazonの検索結果PRで、どんな具の組み合わせで売られているかを一覧で見られます。
長野駅から善光寺と戸隠へ
長野駅には、北陸新幹線のかがやき、はくたか、あさまが停まります。在来線は、信越本線・篠ノ井線、飯山線、しなの鉄道北しなの線です。
善光寺へは、アルピコ交通の善光寺線「びんずる号」が長野駅の1番のりばから出ています。戸隠へは、7番のりばから「ループ橋経由戸隠線」に乗り、戸隠神社の中社なら「戸隠中社」で降りてすぐです。長野県公式観光サイトでは、長野駅から戸隠まで特急バスで約1時間。予約制の観光特急戸隠線もあります。ループ橋経由戸隠線の春夏秋ダイヤは2026年4月1日から12月4日まで(予定)なので、冬のダイヤと各便の時刻、運賃はアルピコ交通の路線のページで確かめてください。
編集部の考え
長野市は、米を節約するために粉で食事をつくってきた暮らしを、そばからこねつけまでの料理の名前で文化庁に申請しました。北信地域の山間部では、米は自分の家で毎日食べることができないほど貴重でした。にらせんべいを焼くときは、油を節約するために、油をしみこませた真綿でほうろくの内側をこすりました。こねつけは余ったご飯に小麦粉を混ぜて焼いたもので、釜に残った米粒は水につけてざるに取り、干し米にして食べることもありました。