茅野のそば店の店主たちは、1月の大寒のころ、殻の付いたそばの実を網の袋に分けて川に沈めます。10日間ほどして引き上げた実を天日と寒風で乾かし、粉にして夏まで置いておき、7月の土用の丑の日のころに店で打って出します。これが献上寒晒しそばで、作って出しているのは八ヶ岳蕎麦切りの会に入っているそば店です。
献上寒晒しそばは、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を文化庁が認定する「100年フード」に、令和5年度の伝統の100年フード部門で入っています。申請したのは茅野八ヶ岳そば振興会議です。
大寒の川に沈めるそばの実
振興会議が文化庁に出した認定の文には、「大寒の時期に10日間ほど清流にそばを浸し、天日と寒風に晒すもので」とあります。使うのは茅野市産の玄そば(殻の付いたそばの実)で、品種は信濃一号です。7月下旬に種をまき、9月下旬から10月上旬に刈り取った実を、年を越してから水に入れます。大寒(1月20日ころ)は一番冷え込み、川の水がきれいになる時期です。浸す日数は1週間から10日間ほどで、茅野市のページでは1週間程度、振興会議のサイトでは1週間から10日間ほどと、資料により幅があります。
認定の文には、水に浸すとたんぱく質(あく)が抜け、雑味が抜けてもちもちとした食感とほのかな上品な甘い香りが出る、とあります。会の会長で、手打ちそばの呉竹房の店主でもある矢野誠二さんは、長野県公式観光サイト Go NAGANO の取材に、そばは殻が柔らかくたんぱく質が多いので虫の被害に遭いやすく、それで川の水に漬けてたんぱく質を流すのだと話しています。冷蔵庫のなかった時代に、夏でもそばを食べるための技でした。
凍っては解ける実を毎日返す
引き上げた玄そばは、会の店が手分けして1か月ほど天日に干します。氷点下の外気で凍り、日中の日差しで解けるのを繰り返すあいだ、表と裏を入れ替えます。引き上げたばかりの実は凍っているので、解けてからひっくり返します。毎日のことで、これが一苦労だと矢野さんは話しています。
乾かすのは水分が16%になるまでです。そのあと諏訪市の高山製粉でふるいにかけ、石臼でひきます。工程が多いぶん、製品になるのは6割ほど。昔は玄そばのまま土蔵や氷室で夏まで置きましたが、いまは粉にしてからマイナス30度の冷凍庫で保管し、夏の土用の前に各店へ納めています。
諏訪大社上社で実を清める
認定の文には、新年に諏訪大社上社でそばの実を神前にて清める清祓式を行う、とあります。Go NAGANO の記事にも、諏訪大社で祈願してもらった玄そばを川に沈める、とあります。
新そばの季節には、会が上社本宮に新そばを納める新蕎麦献納祭があり、夏に加盟店が一斉に売る催しは献上寒晒しそば祭と呼ばれています。会の沿革では、それぞれ2005年と2007年が第一回です。
高島藩の献上と復活
由来について、認定の文には「江戸時代に将軍家に献上された歴史ある寒晒しそばの伝統は現在に引き継がれ」とあります。茅野市のページには、寒中にさらしたそばは夏になっても悪くならないと言われて珍重され、諏訪藩では献上や贈答に用いていた、とあります。出どころは『茅野市史 中巻』です。Go NAGANO の記事には、茅野市に残る文献によると、1789年に高島藩の第9代藩主の諏訪忠粛が将軍に献上したのがはじまりだという、とあります。
その後、生産は一時途切れました。市のページでは、平成17年(2005年)に有志が復活させています。振興会議のサイトによると、古文書などを頼りに作り方を研究して復活させたのが八ヶ岳蕎麦切りの会でした。茅野八ヶ岳そば振興会議も同じ平成17年に、そばの生産者、製粉と製麺の会社、八ヶ岳蕎麦切りの会、行政機関が連携して設立されました。
2026年に寒晒しそばを出した5店
2026年の販売は7月17日(金)に始まりました。終わる日は店ごとに違い、粉がなくなったところで終わります。Go NAGANO の記事には、7月の最終週や、残りによっては8月に入ってからも出せる可能性がある、とありました。この記事を公開した時点では、その提供期間を過ぎています。2025年の開始は7月18日でした。2027年の開始日はまだ発表されていません。食数と値段は、市、振興会議、会のどのページにも載っておらず、未確認です。
矢野さんは Go NAGANO の記事で「すべて手作業なので量をそんなに作れないんです」と話しています。出した5店と、2026年7月の提供期間の営業時間・定休日は次のとおりです。
- 信州手打ちそば工房 遊楽庵(北山5513-281、電話 0266-67-2343)。11時〜14時、不定休
- 手打ちそば処 やまなみ(北山蓼科湖畔、電話 0266-67-2164)。11時〜15時でそばは売り切れ次第終了、水曜と木曜が休み
- 味処 長寿更科(米沢7698、電話 0266-73-6606)。11時〜14時30分と17時〜19時30分ラストオーダー、火曜が休み
- 手打ちそばの呉竹房(米沢3802-1、電話 0266-72-6701)。10時30分〜19時、木曜が休み
- 信州本手打そば 勝山そば店(金沢2332、電話 0266-82-3556)。11時30分〜14時30分ラストオーダーで夜は予約だけ、水曜と第1・第3火曜が休み
所在地はどれも茅野市で、営業時間と定休日は Go NAGANO の2026年7月28日更新の記事のものです。出し方は店ごとに違い、呉竹房は普通の十割そばと食べ比べる2種盛りにしていて、水そばを付ける店もあります。数が限られるので、出かける前に店へ電話で確かめてください。
茅野駅からの足
茅野駅はJR中央本線の駅で、JR東日本の時刻表では新宿方面と松本方面の特急あずさが停まります。
やまなみは、道の駅 ビーナスライン蓼科湖から歩いてすぐです。茅野駅西口の2番乗り場から出る北八ヶ岳ロープウェイ線のバスが蓼科湖前に停まります。茅野市のバス路線案内に載るこの路線の時刻表は、2026年は5月2日から10月25日まででした。それより後に乗るときは、出かける前に茅野市のバス路線案内かアルピコ交通で時刻を確かめてください。勝山そば店は日帰り温泉の金鶏の湯の目の前、長寿更科はビーナスライン沿いにあります。遊楽庵と、米沢・金沢の店へのバスは未確認です。