行田でフライを頼むと、出てくるのは揚げ物ではありません。小麦粉を水で溶き、鉄板の上で薄く焼きながら、ねぎや肉、卵を入れたもので、ソースか醤油だれをつけて食べます。文化庁の100年フードの認定の文には、行田市が書いた「揚げ物ではなく小麦を使った焼き物を意味します」という一句があります。同じ市のゼリーフライのほうは、ジャガイモにねぎやにんじん、たくさんのおからを混ぜた、衣のないコロッケです。名前が似ているだけで、別の食べ物です。
フライは農家のおやつから
行田市のある北埼玉は古くから小麦の産地で、市のページでは、フライはもともと農家が手軽に作るおやつのようなものだったと説明しています。安くて持ち運びやすく、腹持ちがよい。この3つが理由で、昭和初期に全盛期を迎えた足袋工場で働く女工たちに広まり、売る店が増えて定着したと市は伝えています。同じページ(2024年2月15日更新)には、市内では20件以上の店が営業しているとあります。
ゼリーフライの「ゼリー」は「銭」
ゼリーフライはお菓子のゼリーとは関係がありません。市の説明では、ルーツは日露戦争のときに中国から伝わった「野菜まんじゅう」で、小判の形から「銭フライ」と呼ばれ、その「銭」がなまってゼリーフライになったといいます。由来はどれも、伝え聞いた形のまま書かれています。いまは市内のさまざまな場所で売られ、おやつとして市民に親しまれている、というのが市の説明です。
足袋のまちで食べられてきた
行田は足袋のまちです。行田市観光協会の日本遺産のページによると、利根川と荒川に挟まれた土地で綿と藍の栽培が盛んになり、18世紀前半には足袋づくりが始まっていました。近代に入ると需要が増え、日露戦争のころの好景気で工場が次々に建ち、最盛期の昭和13〜14年には全国の約8割の足袋を作る日本一の産地になりました。そのころのまちの様子として、同じページには「寸暇を惜しんで働く女工さんの間で、手軽に食べられるおやつとして」フライとゼリーフライが流行した、とあります。足袋を縫う手を長く止めずに食べられる、という点で、この2つはまちの産業と一緒に育った食べ物です。足袋の倉庫「足袋蔵」は今も約80棟が残り、「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として日本遺産に認定されています。
100年フードは令和3年度に認定
文化庁の「100年フード」は、地域で世代を越えて受け継がれてきた食文化を文化庁が認定する取り組みです。フライ・ゼリーフライは令和3年度の「近代の100年フード部門」に、申請者を行田市として認定されました。市のページでは令和4年3月3日付の認定と書かれていて、同じページ(2026年3月4日更新)によると、これまでに300件の食文化が認定されています。
認定の条件のひとつに、その食文化を100年を超えて継承すると宣言する団体があること、があります。行田には平成7年10月設立の「行田フライ・ゼリーフライ友の会」があり、市の団体一覧には会員30名、市内外のイベントで販売し、子どもたちに味や作り方を教えて次の世代へつないでいく、と載っています。
行田市駅と忍城の近くで食べる
行田市観光協会の「行田たびナビ」のフライ・ゼリーフライの一覧には8件の店が載っています。そのうち秩父鉄道の行田市駅と忍城址に近い3軒を挙げます。営業日と時間は変わるので、行く前に観光協会のページで確かめてください。
- 忠次郎蔵(行田市忍1-4-6)。足袋の原料問屋だった「旧忠次郎商店」の店蔵を改装したそば店で、ゼリーフライも置いています。11:00〜14:00、月曜休(祝祭日は営業)。行田市駅から徒歩約5分。
- 珈琲苑 憩(行田市忍2-4-7)。フライの店で、フライの中に焼きそばを入れた品もあります。10:00〜16:00、水曜・木曜休。行田市駅から徒歩約7分。
- お休み処 かねつき堂(行田市本丸13-13)。フライとゼリーフライの両方があり、電話での予約とテイクアウトができます。11:00〜17:00、月曜と第3火曜休。忍城バスターミナルの観光案内所から徒歩約9分。
かねつき堂の店主は行田市の職員だった人で、観光協会の店のページには「もったいないよりも、買いたいと思うものを売りたい」と考えて始めた店だとあります。店の名前になっている鐘楼は、忍城の改築のときに譲り受けて敷地に移したもので、休憩所として使われています。
通販があるかは、市と観光協会の公式では確かめられませんでした(未確認)。
秩父鉄道の行田市駅か、JRの行田駅から
秩父鉄道の行田市駅は行田市中央19番18号にあり、隣の駅は東行田と持田です。駅にはエレベーターと待合室、コインロッカーがあります。上の3軒のうち2軒は、この駅から歩いて行けます。
JRの行田駅からは、市の市内循環バス「観光拠点循環コース」が使えます。JR行田駅前から水城公園前、古代蓮の里、埼玉古墳公園を回って忍城バスターミナルへ行く路線で、運賃は令和7年4月1日から1回200円、支払いは現金のほかPayPayが使えます。1月1日から3日と12月29日から31日を除いて毎日走っています。令和8年7月1日に停留所と時刻表が変わっているので、市のページの最新の時刻表を見てください。
JR東日本の行田駅のページには、2026年10月16日から11月20日まで、改札とホームをつなぐエレベーターの工事があると出ています。その期間は階段昇降機での案内になり、時間がかかります。
編集部の考え
行田市にとってフライとゼリーフライは、足袋工場で働いた女工のおやつです。小麦粉を水で溶いて薄く焼いただけのフライと、おからを混ぜたゼリーフライ。市の説明に出てくるのは、安くて持ち運びやすく腹持ちがよいという、働く人の側の都合です。認定の文でも由来は伝え聞いた形のままです。食べる店も同じで、忠次郎蔵は足袋の原料問屋だった店蔵で、かねつき堂の鐘楼は忍城から譲り受けたものです。