炊いた米に米麹を合わせて一晩おくと、まんじゅう用の甘酒ができます。上野原の酒まんじゅうは、この甘酒を小麦粉に練り込んだ生地であんを包み、蒸したものです。山梨県の「やまなしの食」のページでは、上野原の粉文化が生み出した郷土食で、主な地域は上野原市です。
文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する100年フードの令和6年度の認定で、上野原酒まんじゅうの食文化は伝統の100年フード部門に入りました。申請したのは上野原酒まんじゅうラボで、その認定の文に、酒まんじゅうは「小麦粉に秘伝の甘酒を練り込んで作る発酵食品です」とあります。
甘酒の種を毎日つぎ足す
農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」によると、酒種づくりは炊いた米に米麹と棡原(ゆずりはら)の水を合わせて発酵させるところから始まり、地元産の小麦粉の生地にその酒種を練り込みます。老舗では毎日つくる新しい酒種を、代々受け継いできた酒種につぎ足して使っています。具は小豆のあんだけでなく、おかかの入った甘味噌や高菜などもあり、店によって違います。
発酵の力で膨らむ生地なので、時間がたつと硬くなります。同じ図鑑では、買ったらできるだけ早くそのまま食べるのが基本で、硬くなったものは蒸して柔らかくするほか、衣をつけて揚げ饅頭にする食べ方もあります。
甲斐絹の市と一六市
上野原市は、甲斐絹(かいき)の技術を受け継ぐ郡内織物の産地の一つです。県の甲斐絹のページでは、郡内織物の名は江戸時代に全国に知られ、明治時代に生産の最盛期を迎えました。県の酒まんじゅうのページには、上野原の甲州街道沿いは甲斐絹の里として市が立ち、江戸と甲州の多くの商人が行き来した、とあります。酒まんじゅうはその商人たちに愛され、広く伝えられたとされています。認定の文でも、酒まんじゅうは「この地域に集まった商人に愛され」、味の良さが商人によって広まり、上野原の名物として定着しました。
永井酒饅頭店のメニューの頁には、明治時代に桂川に屋形船が浮かび、1と6のつく日に立つ一六市が盛んだったころ、「上野原名物ご存じあるか。かかあ天下に塩饅頭、アユの塩焼き、こんだ(今度の)市」とうたわれていたそうだ、とあります。機織りや養蚕が盛んで女性がよく働き、支払いは今度の市で、という時代の歌です。
伝統食図鑑では、小麦の栽培が盛んだったこの地域で、酒まんじゅうは祭りや祝い事に必ず出され、食べ継がれてきました。元祖とされるのは1887(明治20)年頃の創業という永井酒饅頭店で、静岡県御殿場から移り住んだ夫婦が、上野原の小麦と御殿場の酒造りの技術を合わせて独自の酒まんじゅうを生み出したと言われています。
永井酒饅頭店の10種類
永井酒饅頭店は、甲州街道(国道20号線)沿いの上野原市上野原1596にあります。公式サイトによると創業は明治20年頃で、7年間の休業をはさんで平成25年9月に再開しました。休んでいる間も、明治からの酒種を新鮮な酒になるよう仕込み続けたそうです。従業員は3人です。
酒饅頭は常時10種類。あん饅頭120円、みそ饅頭100円、塩饅頭100円、おかか饅頭110円、魚(とと)饅頭160円、高菜饅頭120円、あんなし80円などで、1番人気はあん饅頭、2番がみそ饅頭です。塩饅頭はあん饅頭と並んで一番古い種類で、味付けは塩だけです。みそ饅頭は、昭和40年ごろまで祖母が中心だった店を母が継いだときに提案したもので、祖母は当時反対したそうです。あん饅頭とみそ饅頭で全体の6〜7割を作っているため、午後はほかの種類が品薄になります。
営業は8時30分から17時で、売り切れ次第終わります。定休日は木曜日で、祝日やお彼岸・お盆の期間は営業し、12月31日から1月3日の4日間は休みです。2026年10月のお知らせでは、高齢者2人で9時30分ごろまでに製造を終え、前日までに予約があれば確実に確保する、午後は品薄になる種類も出る、とあります。遠方から行くなら事前に電話をと公式サイトにあり、予約すると取り置きしてもらえます。取り置きの締めの時刻は、公式サイトの頁によって17時までと18時までの両方が書かれています。
季節限定もあります。6月から8月いっぱいは青唐辛子の味噌を練り込んだ辛味噌饅頭、9月からは山梨県牧丘産の巨峰とシャインマスカットの干しブドウ入りで、2026年は120円です。魚(とと)饅頭は、材料のマスの値上がりで2026年7月から10円上げて160円になりました。
風月堂
同じ国道20号線沿いの上野原市上野原583に、風月堂があります。山梨県の公式観光サイト「富士の国やまなし観光ネット」の紹介では、終戦後に開業した店で、2代目の東山さん夫妻が生麹を使って毎日店の奥で手作りしています。基本の酒まんじゅうのほかに、そばまんじゅう、もろこしまんじゅう、よもぎまんじゅう、塩麹まんじゅうがあり、1個80円。営業時間は9時から18時、定休日は木曜日。この掲載は2019年6月6日現在のもので、今の値段と営業時間は未確認です。
上野原駅から
最寄り駅はJR中央本線の上野原駅です。永井酒饅頭店へは駅からバスで8分、明誠高校入り口で降りると前方に店が見えます。歩くと北口から急な階段を上って25分で、公式サイトはかなりきついとしてバスを勧めています。風月堂は上野原駅から徒歩20分、中央自動車道の上野原ICから車で5分と観光ネットにあります。駅から市街へのバスの便数と時刻は未確認です。中央本線の列車の時刻は、JR東日本の上野原駅の時刻表で確かめられます。
取り寄せと発送
永井酒饅頭店は全国発送を電話で受けています。信越・中部・東海・関東・南東北への送料は2kg・20個程度で694円、5kg・50個程度で937円で、商品と一緒に代金と送料の伝票が入り、10日以内に郵便局のATMで振り込みます。発送の希望はあん饅頭とみそ饅頭が多いと公式サイトにあります。取り寄せの先は、楽天市場で上野原の酒まんじゅうを探すPRにも並んでいます。
編集部の考え
上野原では、小麦粉に甘酒を練り込む酒まんじゅうを、甲斐絹の取引でにぎわった時代から商人に好まれた名物として、今も町の店が作っています。県の資料では、甲州街道沿いに甲斐絹の里として市が立ち、江戸と甲州の商人が行き来し、酒まんじゅうはその商人たちに愛されて広く伝えられたとされています。永井酒饅頭店は明治20年頃の創業で、7年間の休業の間も明治からの酒種を仕込み続け、平成25年9月に店を再開しました。2026年10月の店のお知らせでは、高齢者2人で9時30分ごろまでに製造を終え、資材と原料が値上がりするなかで当面は今の値段で続けます。令和6年度の文化庁の100年フードには、上野原酒まんじゅうラボが申請して、伝統の100年フード部門で認定されました。