「正しく法を守り、誠意を尽くして働いているものがみんな苦しみ、悪徳が栄えている」。終戦直後の世の中を松下幸之助はそう憂え、1946年11月3日にPHP研究所を設立しました。PHPは Peace and Happiness through Prosperity、「繁栄によって平和と幸福を」の頭文字です。
幸之助の歩みは、大阪府門真市のパナソニックミュージアムにある松下幸之助歴史館で見られます。館内には幸之助の94年の生涯を当時の世相とともに追う展示室と、PHP研究所が監修した本を置くライブラリーがあり、入館は無料です。京阪電車の西三荘駅から徒歩約2分。休館日は末尾の「行き方と見学の決まり」にまとめました。
赤字が続いた戦後に生まれた言葉
パナソニックの社史「松下幸之助物語」によると、終戦直後の松下電器は、製品の公定価格が低く抑えられる一方で激しいインフレに見舞われ、作れば作るほど赤字が増えていました。冒頭の言葉は、この時期に幸之助が社会を見て漏らしたものです。
考えた末に行き着いたのが、繁栄こそが平和で幸福な生活をもたらすという考えでした。それを実現する方法を研究し、世の中に広める機関として作ったのがPHP研究所です。同じ社史は、事業活動が制限されていたこともあって、幸之助が勉強会や講演会を開き、機関誌を出し、街頭でビラも配ってPHP運動に力を注いだと伝えています。月刊誌『PHP』の創刊は1947年で、研究所は2026年が創設80周年にあたります。
PHP研究所の側も、当時を振り返る説明を出しています。食べる物にも事欠き、まじめに働くほど損をする世の中で、GHQの占領下にあって事業の立て直しも思うように進まなかった、という見方です。研究所は最初の研究目標に、働く人の生活を豊かにすること、無駄を省くこと、税を妥当で公正にすることなど10の項目を並べました。研究所の説明では、研究を進めるうちに幸之助は、制度を改めるより先に人の物の見方や考え方、人間観を見直すべきだと考え、人間の本質とは何かという問いへ探究を広げていきました。
ライブラリーの「PHPの考え方」の本
PHPという言葉の中身に近づけるのは、ライブラリーです。館はここの本を「行き方 考え方」のヒントになる300冊と紹介し、幸之助の自著100冊と、6つのテーマで選んだ200冊を挙げています。一人掛けのソファで読めます。壁の棚の本は、展示室に掲げた幸之助のことばに関連するものを選んであります。
6つのテーマは「人生・仕事」「マネジメント」「リーダーシップ」「政治・経済」「人間・宇宙」「PHPの考え方」で、この200冊は中央のテーブルに並び、監修はPHP研究所です。ことばカードに関連したアーカイブズ史料は備え付けのタブレットで見られ、映像や幸之助の肉声も聞けます。
94年を7章で追う展示室と「創業の家」
歴史館の展示室は、幸之助が歩んだ94年の道を7章に分けて見せます。館の紹介には「ご自身の年齢と照らし合わせながら」見てほしいとあり、幸之助がいくつもの困難をどう乗り越えたかを、その時代の世相と並べて追う作りです。
展示室のほかに、創業のころの作業場を原寸大で再現した「創業の家」があります。若き日の幸之助と妻のむめの、義弟の井植歳男の白い人形とともに、アタチンの製造工程を紹介する場所です。社史によると、大正7年に創業したときの人手は家族3人で、そこから「アタッチメントプラグ」などの配線器具を作っていきました。
「学びの杜」では、『日に新た』『物をつくる前に人をつくる』『なぜ物をつくるのか』『商いの心』の4本の映像を見られます。幸之助のことば30点のうち15点もここに展示されています。
幸之助の新聞広告を並べた企画展
2026年7月8日から、企画展「松下幸之助 紙面に託したメッセージ ―企業広告の変遷―」が開かれています(2026年10月22日時点)。1927年の『ナショナルランプの三行広告』から1982年の広告まで、19の作品を年代順に並べた展示で、PHP研究所ができたあとの1951年に出した『我々の生活はこれでよいか?』や、1969年の『松下電器は“繁栄”を輸出します』も入っています。会期の終わりの日は未確認です。
1933年の本店を再現した建物
歴史館の建物は、1933年に門真に構えた第三次本店を再現したものです。中のステンドグラスは1933年の本店にあった実物で、1968年に建った旧歴史館を経て、2018年3月に今の建物へ移されました。
行き方と見学の決まり
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最寄り駅 | 京阪電車 西三荘駅から徒歩約2分 |
| 開館時間 | 10時00分〜17時00分 |
| 休館日 | 土曜・日曜・祝日・お盆・年末年始ほか |
| 入館料 | 無料 |
土曜の休館は2026年4月1日から始まりました。ほかにも休館日があるので、出かける前にパナソニックミュージアムのホームページの開館カレンダーを見ておくと確かです。
一般の見学を受け付けていて、順路は決まっていません。ただ館内に入れる人数に限りがあり、混み具合によっては入館を断られることがあります。10名以上の団体の予約は2026年1月から受け付けていません。見学時間について、館は「最大約60分」と案内しています。ガイドツアーはなく、自分のスマートフォンで二次元コードを読み取って使う音声ガイド(日本語・英語・中国語、無料)があります。
写真は撮れますが、一部に撮影禁止の場所があります。飲み物は受付とホワイエでだけ飲めて、食事はできず、館内にカフェやレストランはありません。車椅子スロープから入館でき、車椅子は1台用意されています。多目的トイレは館内に1か所。おむつ替えや授乳には多目的ルームを使えます。ベビーカーの貸出しはありません。荷物は無料のロッカーに預けられ、館内ではWi-Fiも使えます。
ミュージアムショップでは、幸之助のことば全30点のことばカードが550円、PHP研究所の書籍のうち幸之助の『道をひらく』PRの日本語版が1,210円です。
駐車場は普通乗用車10台分の無料駐車場で、事前予約は要りませんが、台数に限りがあるため館は公共の交通機関を勧めています。同じ敷地にあったものづくりイズム館は、館の案内によると建物の老朽化で2025年12月26日に閉館しました。