大阪の海でふぐは獲れるのでしょうか。農林水産省の「令和6年漁業・養殖業生産統計」で見ると、令和6年(2024年)の大阪府の海面漁業のふぐ類の漁獲量は14トンでした。全国の合計が5,859トンですから、大阪で獲れる分はごくわずかです。大阪市中央卸売市場の年報でも、令和7年(2025年)に大阪府から入った天然のふぐは、東部市場の23kgだけでした。
それでも冬の大阪では、てっちりの鍋にふぐが入ります。そのふぐがどこから来ているかは、同じ年報に産地の名前で載っています。令和7年に本場と東部市場の2つの市場を通ったふぐは合わせて584トンで、養殖の396トンの産地は長崎、香川、中国、大分の順でした。
県別のふぐの漁獲と養殖
令和6年(2024年)のふぐ類の漁獲量と養殖の収穫量を、上位の県と大阪で並べます(農林水産省、単位はトン)。
| 漁獲(海面漁業) | 量 | 養殖(海面養殖業) | 量 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 2,998 | 長崎 | 999 |
| 新潟 | 352 | 熊本 | 380 |
| 石川 | 262 | 大分 | 376 |
| 愛知 | 244 | 香川 | 248 |
| 山口 | 185 | 佐賀 | 183 |
| 大阪 | 14 | 大阪 | 秘匿 |
| 全国 | 5,859 | 全国 | 2,758 |
養殖の収穫は長崎が999トンで全国2,758トンの3分の1余りを占め、熊本、大分が続きます。上位5県のうち、香川を除く4県が九州です。前の年(令和5年)は長崎が1,083トンで、全国の約4割でした。大阪の欄が「x」なのは、事業者が少なく個別の事業者が分かってしまうため数値を伏せてある印で、ゼロという意味ではありません。
漁獲の表で北海道と新潟が上に来るのは、この「ふぐ類」が種を分けない合計だからです。とらふぐだけの都道府県別の内訳は、この表にはありません。ですから、北海道をとらふぐの産地と読むのは誤りです。養殖の表も同じ「ふぐ類」の区分で、統計はとらふぐと限定していません。
令和7年(2025年)の統計は、2026年5月29日に概数が出ています。100トン単位に丸めた数字で、全国の養殖は約2,700トン、そのうち長崎が約1,000トンでした。丸めてあるので、県の順位はこの表では決められません。
天然のとらふぐの資源は、水産研究・教育機構が2026年8月21日に公表した資源評価で分かります。日本海・東シナ海・瀬戸内海系群では、2025年漁期の漁獲量が122トン、0歳の加入が4.3万尾で、どちらも過去最低でした。資源量は2020年漁期の1,385トンから減って989トンです。親魚の量は824トンで、目標管理基準値の案577トンを上回っています。産卵は、水産庁の2015年(平成27年)10月の資料によると3月下旬に九州南部から始まり、水温の上昇とともに北上して、瀬戸内海では4〜5月です。同じ資料では、1993年以降は毎年、人工の種苗を放流しています。
大阪市の2つの市場に来るふぐの産地
大阪市中央卸売市場の年報は、本場と東部市場のそれぞれについて、ふぐを天然と養殖に分け、月ごと、産地ごとの数量と金額を載せています。令和7年(2025年)の1年間では、本場が天然107,591kgと養殖194,203kg、東部市場が天然79,627kgと養殖202,212kgでした。2つの市場を合わせると天然187トン、養殖396トンの584トンで、金額は約14億7千万円です。
養殖の産地を、2つの市場の合計が多い順に並べます(令和7年、単位はkg)。
| 産地 | 本場 | 東部市場 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 長崎県 | 29,348 | 73,247 | 102,595 |
| 香川県 | 22,698 | 75,395 | 98,093 |
| 中国 | 52,617 | 28,308 | 80,925 |
| 大分県 | 35,897 | 12,069 | 47,966 |
| 熊本県 | 39,294 | 1,484 | 40,778 |
| 佐賀県 | 2,519 | 4,317 | 6,836 |
本場だけで見ると、養殖で最も多いのは中国の52,617kgで、熊本の39,294kg、大分の35,897kgが続きます。東部市場では香川と長崎がそれぞれ7万kgを超え、中国の28,308kgが3番目です。
中国産の割合は、この3年で下がっています。2つの市場を通った養殖のうち中国産は、令和5年(2023年)が101,721kgで27%、令和6年(2024年)が100,306kgで26%、令和7年が80,925kgで20%でした。てっちりの季節の12月に本場の養殖に占める中国産は、令和5年の45%から、令和6年は30%、令和7年は34%です。市場を通ったふぐの量は、3年とも560〜590トンの間でした。
天然のふぐの産地は北海道から宮崎まで日本の各地に広がり、外国産は2つの市場を合わせて638kgです。平均価格は本場で天然が1,548円/kg、養殖が3,117円/kgでした。
年報に載るのは市場を通ったふぐだけで、市場を通らずに店や家庭へ届く分は数えられていません。ですから、大阪の店で出るふぐの2割が中国産、とは書けません。書けるのは、2つの市場を通った養殖のふぐのうち、中国産が20%あった、というところまでです。
下関の南風泊市場
南風泊(はえどまり)市場は下関市地方卸売市場のひとつで、昭和49年(1974年)11月1日に開きました。下関市はこの市場を、対馬周辺や瀬戸内海、豊後水道、伊勢湾を主な漁場とする「ふぐ延縄漁業の天然ふぐ」と、「九州・西日本各地の養殖ふぐの主要水揚市場」だと説明しています。天然の魚が獲れた海の名前と、養殖の魚を育てた地方の名前を、市が同じ一文で挙げています。
令和6年(2024年)の南風泊市場の取扱量は1,642トン、取扱金額は33億6,800万円でした(下関市水産統計年報)。ふぐだけの表では、南風泊のふぐは1,636トンで、そのうち984トンが養殖のとらふぐでした。同じ下関市の唐戸市場は1,294トンで13億9,700万円ですから、南風泊は量のわりに金額の大きい市場です。
年報の南風泊市場の産地別の表では、長崎が638トンで最も多く、佐賀が80トン、大分が60トン、熊本が58トンと続きます。天然とらふぐを分けた「外海」は70トン、「内海」は16トンで、外国は中国が8.6トン、韓国は0でした。産地を「その他」とした分が655トンあり、その内訳は表にありません。
下関から大阪へ何トン行くかを結ぶ数字は、下関市の年報にも大阪市の年報にもありません。大阪市の年報の産地は、魚を育てた県か国の名前で書かれています。
大阪府でふぐを捌く人の登録
大阪府は、ふぐを捌く人の資格を条例で決めています。食品衛生法の改正に伴い、令和3年(2021年)6月1日に旧条例に基づくふぐ処理業の許可が廃止され、条例は「大阪府ふぐ処理登録者の規制に関する条例」に改められました。登録した人だけができるのが、府の言葉で「ふぐから可食部位を取り出したり、切り分けたりする行為」です。
令和4年(2022年)4月1日には、講習会の制度を試験の制度に改めました。厚生労働省がふぐ処理者の認定基準を全国で標準化する方針を示し、知識と技術は試験で確認することとした通知を受けた改正だと、府は説明しています。2022年3月31日以前に講習会を修了した人の登録はそのまま有効で、新しい手続きは要らないと府は書いています。府内の登録者の総数は府のページに載っていませんが、試験の結果は出ていて、令和7年度は481人が受けて328人が合格しました。
「大阪が全国の6割」と市場の数字
大阪が全国のふぐの6割を食べる、という言い方があります。2014年1月8日付の日本経済新聞の記事では、この6割は2013年12月末に大阪市中央卸売市場のせり人が話した言葉として出てきます。大阪の市場の水産物全体の取扱量は東京の築地の3分の1ほどなのに、ふぐは築地と同じくらい扱っている、という市場での見比べが根拠で、統計を出典にした数字ではありません。
今の東京の市場と比べると、東京都中央卸売市場に令和7年に入ったふぐは約457トンで、大阪市の2つの市場の584トンより少なめです。ただし東京の数字の半分余りは、身を下ごしらえした「みがきふぐ」の重さです。東京に入ったふぐの3分の1余りは山口から出荷されています。
統計で食べる量を確かめようにも、総務省の家計調査は2025年改定の品目分類に「ふぐ」の品目はなく、まぐろ・あじ・ぶりなどが品目として立っているだけです。大阪の世帯がふぐをどれだけ買っているかは、家計調査からは分かりません。
令和6年(2024年)に大阪市の2つの市場を通った581トンは、同じ年の全国の漁獲5,859トンと養殖2,758トンを合わせた8,617トンの7%ほどです。市場を通らない取引は年報に載りませんから、6割を否定することもできません。言えるのは、市場の数字では出てこない、というところまでです。
令和7年の漁業・養殖業生産統計の確定した数字は、2027年2月に出る予定です。出たら、最初の表を差し替えます。