王滝村では、どんぐりを古くから「ひだみ」と呼んできました。秋に拾い、加工して保存しておき、餅や餡にして食べます。長野県木曽郡の、御嶽山のふもとの村です。
この食べ方は「ひだみの食文化~ひだみ餅、ひだみコーヒーゼリー、ひだみ餡入りパイ~」の名前で、令和7年度に文化庁の「100年フード」に認定されました。地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を文化庁が認定する取り組みで、ひだみが入ったのは「伝統の100年フード部門~江戸時代から続く郷土の料理~」です。申請したのは王滝村役場でした。
使うのはミズナラとコナラ
どんぐりを食べるほかの地域では、あくの少ないシイを使うのが一般的です。王滝村は別の木の実を使ってきました。村役場が文化庁に出した文には、村で主に使うどんぐりは「あくが強いものの殻が薄く加工しやすい王滝村に多く自生するミズナラとコナラです」とあります。あくを抜く手間は増えますが、殻は薄く、実は村に多く生えている木から拾えます。
村では、そのあく抜きを容易にする方法を工夫して、ひだみを食べやすく、加工しやすくしてきました。村はこれを「ひだみ料理」として名産品にしようと、継承の活動を続けています。なお「ひだみ」は登録商標で、村のお知らせにも認定の文にもその断りが付いています。
もち米に混ぜたひだみ餅
ひだみ餅は、ひだみの粉をもち米に混ぜた餅です。なぜ混ぜたのかは、認定の文に「山深い王滝村では米が貴重だったため、ひだみ粉はもち米に混ぜて」とあります。この餅は、厳しい冬を乗り切るための保存食や救荒食の役割を果たしてきました。
いまは餅のほかに、パンや焼き菓子にも使われています。村の特産品のページには、どんぐりの粉を使った品としてコーヒー、お饅頭、パイ、ケーキが並び、どんぐり染めの袋やハンカチも載っています。同じページには、古くは「ひだみ」と呼んで親しんだ味を「村の料理の達人たちが復活させました」とあります。
村の人がほかの町村の人に作り方を教えたこともあります。長野県の魅力発信ブログ「是より木曽路」によると、平成31年1月29日に木曽で開かれた伝統食文化講習会は王滝村の伝統食がテーマで、村の農村生活マイスター3名が講師を務めました。献立にはどんぐり揚げ餅とどんぐりコーヒーゼリーが入っていました。揚げ餅は、どんぐりを粉にして餅に練り込み、天ぷらにしたものです。
あくが出なくなるまで茹でる
王滝村は平成元年から、「ひだみ」と名付けた村営の施設で、どんぐり料理を味わい、学べる機会をつくってきました。木曽おんたけ観光局のオンラインショップ KISO ORIGINAL が2023年7月に載せた記事によると、この施設は閉店していて、長く施設を支えてきた瀬戸美恵子さんが、どんぐりをはじめとする村の郷土食の継承を続けています。木曽おんたけ観光局の「食べる店」の一覧に、この施設の名前はありません。
同じ記事に、瀬戸さんから聞いたあく抜きの手順が載っています。拾ったどんぐりは殻のまま1時間ほど茹で、1週間天日に干します。からからになった殻をむいて実を取り出し、一晩水に浸してから、重曹と一緒に弱火で茹でます。昔は重曹の代わりに、どんぐりの木を燃やした灰を使っていたそうです。そのあとは水を替え、今度は真水で茹でて、また水を替える。これをあくが出なくなるまで繰り返すのに、およそ4〜5日かかります。
あくの抜けた実はざるにあげて一晩水を切り、手で潰します。粉になったものを冷凍で保存し、料理に使います。拾ってから粉になるまで、およそ1か月です。瀬戸さんは、ひだみ料理はズクがあればできると話しています。ズクは長野県の方言で、労を惜しまずに励むことを言います。あく抜きで出た水は染料になり、村の特産品のページにあるどんぐり染めに使われます。
ひめやと木曽まんまグループ
村の特産品のページが、どんぐりの品を食べられる所・売っている所として挙げているのは、ひめや(電話 0264-48-2020)と木曽まんまグループ(電話 0264-48-2915)です。
ひめやの住所は王滝村東3186で、木曽おんたけ観光局の案内では二合目のエリアに入っています。営業は10時〜17時。定休日は不定休で、Instagram で確かめるよう案内されています。東屋が併設されていて、菓子を食べながら休めますし、予約と配達もできる範囲で受けています。支払いは現金のほか、PayPay や Suica などが使えます。
木曽まんまグループは、どんぐりとえごまで菓子を作っているグループです。品は JA 王滝店で売っています。
ひだみ餅、ひだみコーヒーゼリー、ひだみ餡入りパイのどれをどちらで扱っているかと、それぞれの値段は、村と観光局のページに載っておらず未確認です。どんぐりを拾って加工するのは秋なので、品がそろう時期も含めて、行く前に電話で聞いておくと確かです。村の特産品のページにあるのは売り場の名前と電話番号で、通販や発送の案内は載っていません。
木曽福島駅からきそバスで王滝へ
鉄道の最寄りは JR 中央本線の木曽福島駅です。村の交通の案内では、名古屋からも、塩尻で乗り換える東京方面からも、特急しなので木曽福島まで来て、おんたけ交通のバスに乗り継ぎます。
駅と王滝を結ぶバスは、令和7年10月1日に木曽地域のバスが再編されてから、「きそバス」の西部幹線になりました。村が載せている時刻表(令和7年10月1日ダイヤ改正)では、木曽福島駅を9:00に出る便が王滝に9:38、13:40に出る便が14:18に着きます。帰りは、王滝を14:30に出る便が木曽福島駅に15:08、16:42発が17:20、時刻表でいちばん遅い17:57発が18:35に着きます。
一部の便は土日祝日に運休し、年末年始の12月29日〜1月3日は休日ダイヤです。運休する便は時刻表に赤い字で書かれているので、乗る日が土日祝日なら村のページの時刻表で確かめてください。運賃は時刻表に載っておらず、未確認です。
編集部の考え
王滝村の人は、あくの強いミズナラとコナラのどんぐりを秋に拾い、粉にして、もち米に混ぜて食べてきました。ほかの地域で一般的なのはあくの少ないシイですが、王滝村に多く自生するのはミズナラとコナラで、こちらは殻が薄く加工しやすい実です。米は山深い村で貴重だったので、ひだみの粉はもち米に混ぜ、冬を乗り切るための保存食にしました。あくは、水を替えながら茹でることを4〜5日繰り返して抜き、拾ってから粉になるまでにおよそ1か月かかります。平成31年1月29日の講習会では、村の農村生活マイスター3名が、木曽の町村の女性農業委員たちにどんぐり揚げ餅とどんぐりコーヒーゼリーの作り方を教えました。