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南相馬のベンケイ:萱浜に伝わる大根と芋がらの炒め煮、由来と市博物館への行き方

伝統の100年フード · 令和3年度認定

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白壁と木の格子を使った二階建てのJR常磐線原ノ町駅舎。手前は駐車場で、右端に時計塔が立つ
JR常磐線の原ノ町駅。南相馬市原町区の玄関口で、萱浜地区や南相馬市博物館へはここから向かう(撮影 2022年4月) 写真: Mister0124(CC BY-SA 4.0、Wikimedia Commons)

萱浜(かいはま)は、南相馬市原町区の海沿いの地区です。ここの家々で正月の前に作られてきたのが、ベンケイという大根の炒め煮でした。いちょう切りの大根を油で炒め、芋がら(里芋の茎を干したもの)を加えて酢・醤油・砂糖で炒り煮し、赤唐辛子を割り入れます。南相馬市博物館のレシピには、作りたてより冷めたものがおいしく、再加熱は厳禁、日にちが経つほど味が馴染む、とあります。

文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する「100年フード」の令和3年度の認定で、ベンケイは伝統の100年フード部門に入りました。申請したのは福島県立相馬農業高等学校です。

正月の保存食とお講の料理

博物館の学芸員、川崎悠が2015年4月に書いた文によると、ベンケイは萱浜のなかでも特に北萱浜に伝わる料理で、昔は正月用の保存食でした。正月の前に一斗甕にひとつ分を作り置きして、1ヶ月は食べたといいます。寺に人が集まるとき、浄土真宗のお講にも出されたハレの日の食べ物で、いまは材料の大根と芋がらが採れる晩秋から冬の季節の味になっています。味は家ごとに違います。博物館のレシピの紙には「嫁いで一番最初に教わる料理でした」とあり、材料が7つなので弁慶の7つ道具から名が付いたという説も、地元に伝わる由来の一つとして載っています。

材料は大根、芋がら、赤唐辛子、酢、醤油、砂糖、油の7つです。ふだんは目分量で作る料理で、鍋ひとつ分の分量と作り方は市のページと、博物館がYouTubeに出している動画「おうちで郷土料理〜ベンケイ編〜」で見られます。

天明の飢饉と北陸からの移民

南相馬市を含む奥州中村藩では、天明3年(1783)からの天明の飢饉で餓死者が出て人口が減り、田畑に荒地が増えました。博物館の通信30号(2016年7月発行)によると、藩は人口を増やすために北陸の浄土真宗門徒の農民を移住させることにしましたが、江戸時代は農民の移住が禁じられていたので、はじめは元家老の久米泰翁の個人事業として進めました。文化10年(1813)には、越中国砺波郡二日町(今の南砺市)の普願寺の出で藩にいた僧の発教が、久米の依頼で地元に帰って移民を募ります。最初の移住者を藩が手厚く迎えたことで次々に人が移り、弘化4年(1847)には北陸からの移民を含めて1万人弱の人口の増加がありました。

この移民のうち萱浜に入った人たちが伝えた料理と考えられているのがベンケイです。博物館の2015年の文も、相馬農業高校が文化庁に出した認定の文の「おもに北陸地方から入植した浄土真宗移民が持ち込んだと伝わります」も、言い伝えとして書いています。ただし北陸にベンケイという料理があったのではなく、移民が故郷の料理の味を手がかりに萱浜で作り出したものだ、というのが博物館の説明です。

名前の由来と、砺波への里帰り

ベンケイという名は、認定の文では、移民の出身地の一つである富山県砺波地方の方言、ベンケ(大根おろし)とベンケオロシ(唐辛子を入れた大根おろし)が由来だと考えられています。砺波ではこの方言はもうほとんど使われていない、と市のページにあります。

川崎悠が2018年8月に書いた文では、富山県にベンケイという料理はなく、砺波地方の郷土料理のいりごく(カブを醤油で炒り煮したもの)と、すずき(ずいきと呼ばれる里芋の茎の酢漬け)をアレンジして南相馬の地で生まれた料理です。慣れない土地で「手近な材料で故郷の味を再現したもの」が、萱浜のベンケイでした。

博物館は2014年3月に、砺波市の砺波郷土資料館へベンケイの資料を送っていました。2017年10月、資料館の学芸員渡辺礼子から手紙が届きます。入善町の人から、砺波から南相馬に伝わったベンケイについて問い合わせがあったが、資料館の職員にも知る人がいなかった、送られていた資料でようやく正体が分かった、という中身でした。渡辺は資料館でベンケイを作って職員と試食し、南相馬からは萱浜のベンケイが送られました。資料館はその後、デジタルミュージアムの砺波正倉でベンケイを取り上げています。

相馬農業高校の研究

申請した相馬農業高校の食品科学科は、令和2年度からベンケイの研究をしています。きっかけは、農業と環境の授業で文化の形成と継承を学ぶなかで、南相馬市博物館の学芸員から話を聞いたことでした。2023年4月28日には、加工研究班が総合実習でベンケイを作っています。

萱浜地区は、東日本大震災の津波で地区のほとんどが災害危険区域になり、居住が制限されました。博物館のレシピの紙(作成年の記載なし)には、原発事故の影響で材料の入手も難しくなっている、とあります。令和3年度の認定の文の時点で、学校は今後どのようにベンケイを継承していくかを検討していました。

食べられる所と、家で作るとき

ベンケイを出す店や売り場は、学校・南相馬市・福島県の公式に案内がなく、未確認です。博物館のページには、給食で食べたことがある南相馬市民もいる、とあります。同じページは、ごはんのお供、お茶うけ、お酒のおつまみのどれにも合う保存食で、作り置きしておくと便利、思い切って濃い味に仕上げるのがコツ、大根が旬の時期に作ると一番おいしい、と家で作る人に向けて書いています。

南相馬市博物館へ、原ノ町駅から

ベンケイの資料と動画をウェブで出している南相馬市博物館は、原町区牛来字出口194、県立東ヶ丘公園の中にあります。開館は9時から16時45分まで(最終入館16時)、休みは月曜日で、祝・休日なら開館して翌平日が休みです。観覧案内(2026年4月1日更新)では、相馬野馬追の最終日の翌日5月26日と、年末年始の12月29日から1月3日も休みます。観覧料は常設展だけのときは一般300円、企画展のときは常設展を含めて一般400円。駐車場から入口まで約200メートルの坂道があり、歩くのが難しい人は電話(0244-23-6421)で頼めば入口の近くまで車で入れます。常設展示室には野馬追・自然・歴史・民俗の部門があります。館内にベンケイの展示があるかどうかは、観覧案内と概要に記載がありません。

鉄道ではJR常磐線の原ノ町駅が最寄りで、博物館の交通案内(2021年5月更新)では駅からタクシー約10分、仙台駅から常磐線で約1時間20分です。原ノ町駅の時刻表(2026年10月)では、下りは岩沼・仙台方面で普通列車は仙台行き、上りはいわき・水戸方面で普通列車はいわき行きと水戸行き、特急ひたちは品川行きです。普通列車は原ノ町駅始発のものが多くあります。萱浜地区までの公共交通は博物館と市の案内になく、未確認です。

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