桜鍋は、馬の肉を味噌ダレと割下で煮る浅草の鍋です。鍋の深さは2cmほどしかありません。文化庁が、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を認定する100年フードに、令和5年度、近代の100年フード部門で、桜鍋を中心とする馬肉食文化として認定されました。申請したのは一般社団法人奥浅草観光協会です。店で食べるなら、吉原に一軒残った桜なべ中江へ、東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅から歩いて9分。家で食べるなら、通販に桜鍋用の馬肉のセットがあります。
味噌ダレと割下、深さ2cmの鍋
認定の文は観光協会が書いたもので、明治初期の料理人が地元の農耕馬や荷馬の肉を使い、「味噌ダレと割下の両方で味付けしたことで生まれ、深さ2cm程度の浅い鍋で食します」とあります。味付けも鍋の浅さもこの土地でできた食べ方で、文化人や芸能人に好まれて今日まで続いてきた、と同じ文は続けます。観光協会はこの料理を、地域の産業とも結びついた郷土料理と位置づけています。認定の一覧では東京都の項に載っています。
鍋が浅いわけを、吉原で営業を続ける桜なべ中江の公式サイトは別の面から説明しています。遊廓に行き帰りする客がさっと煮てさっと食べるために、すぐ煮えるよう浅くしたのだそうです。食べ方の案内では、馬肉は煮すぎると固くなるので、桜色のうちに食べるよう勧めています。肉は生でも食べられる新しさのものを使っている、と店は書いています。
同じ認定の文には、正直な一節があります。「最盛期に比べ店舗数が激減し」、桜鍋を食べる文化の継承も危ぶまれる、と観光協会は書き、そのうえで、最近は全国から幅広い層が訪れ、外国人が挑戦する姿も見られると続けます。
明治初期の吉原と馬肉
桜鍋が生まれた吉原は浅草寺の北側で、観光協会はこの一帯を奥浅草と呼んでいます。中江の公式サイトの説明では、馬肉料理の店は昔、蹴飛ばし屋と呼ばれ、その始まりは明治時代です。吉原で遊ぶ金のない客が乗ってきた馬を近くの商家に売り、困った商家が、横浜で流行っていた牛鍋にならって馬の肉で鍋を作ったのが始まり、と伝わっています。最盛期には吉原大門前の通りに20軒以上の店が並んだそうで、中江もその一軒でした。
桜肉という呼び名の由来について、店はいくつかの説を並べています。千葉の佐倉に幕府の牧場があったから、桜の咲くころが食べごろだから、坂本龍馬が作ったと伝わる都々逸に馬と桜が詠まれたから、煮て桜色になったころが食べごろだから。どれか一つに決めてはいません。
桜鍋に最初に味噌ダレを使ったのは中江の初代で、馬力をつけるという言い回しも吉原で桜鍋を食べることが語源だ、と店は説明しています。これは店の言葉で、観光協会の文では味噌ダレを使ったのは明治初期の料理人です。
吉原に残った桜なべ中江
いま桜鍋を食べに行く先として、店の公式サイトを確かめられたのは桜なべ中江です。創業は明治38年で、場所は台東区日本堤1-9-2、吉原大門の近くです。公式サイトには「いまでは吉原に残ったのは中江だけになりました」とあります。店の前にはかつて音無川の土手があり、土手の中江の愛称はそこから来ています。
最初の店は明治44年の吉原大火で焼け、建て直した店も大正12年の関東大震災で倒れました。その翌年に建て直したのが今の建物で、昭和20年3月10日の東京大空襲でも焼け残り、平成22年に国の登録有形文化財になりました。一階の壁には谷文晁の作と伝わる四季の馬の絵があり、常連だった武者小路実篤が扇に書いた詩も飾られています。予約だけで使う別館金村もあり、吉原最後の料亭だった建物を店が引き継いだものです。
肉は、北海道で生まれて九州・久留米の牧場で中江専用に育てた純国産の馬のほか、国産の仕入れ値が上がったためポーランド産も使っています。営業時間は平日が17時から22時、土日祝が11時30分から14時と16時から21時。昼の営業は土日祝だけで、平日は夕方からです。定休日は月曜日のほかにもあるので、行く前に公式サイトの営業カレンダーで確かめてください。初めての人向けの案内には、元は気軽に食べる下町の店なのでドレスコードはない、とあります。ジーパンにTシャツ、サンダル履きでもかまわない、とも書かれています。鍋を食べ終えたら、残った割下に溶き玉子を入れてご飯にかける、あとご飯を頼めます。
三ノ輪駅から歩いて9分
最寄りは東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅で、3番出口から歩いて9分です。浅草からは、浅草雷門前のバス停から池袋駅東口行きの都バスに乗り、吉原大門で降りて歩いて2分。台東区循環バスの北めぐりんでも吉原大門で降りて2分です。タクシーなら5分で、店は約600円を目安と書いています。上野からも、上野松坂屋前のバス停から南千住駅東口行きの都バスで吉原大門へ行けます。上野からタクシーなら10分で、約1000円が目安です。南千住駅からは歩いて15分、三ノ輪橋からは歩いて13分です。
タクシーでは、行き先は吉原大門(よしわらおおもん)と伝えるよう店は案内しています。だいもんと言うと芝大門に行ってしまうことがあるからです。駐車場はありません。
お取り寄せ
中江の公式サイトにはオンラインショップの案内があります。扱う品は未確認です。浅草まで行けない人は、楽天市場で桜鍋のセットを探すPRとAmazonの検索結果PRで、桜鍋用の馬肉のセットを取り寄せられます。
編集部の考え
桜鍋の店は最盛期から激減し、20軒以上あった吉原で残ったのは中江の1軒です。観光協会は平成28年2月23日に、奥浅草の観光振興のために設立された団体で、令和5年度の認定ではその協会が申請者です。認定の名称は店の名前ではなく、桜鍋を中心とする馬肉食文化です。