黒電話の受話器に話しかけると、落合陽一氏の声で返事が返ってきます。日本科学未来館の常設展示「計算機と自然、計算機の自然」に、2026 年 4 月 1 日に加わった作品です。題は「話し相手が人間か機械か、どちらでもいいじゃないか」。音声認識 AI が言葉を文字にし、文章生成 AI が返事を作り、音声生成 AI がそれを落合氏の声で読み上げます。
館の発表はこの作品に、黒電話の時代には受話器の先に人間しかいなかったのに、いまは人と機械の区別がはっきりしなくなってきた、という説明を添えています。
未来館は 2026 年 10 月 1 日から 2027 年 4 月 22 日まで、施設整備工事のため休館しています。下に書いた開館時間・料金・行き方は休館前のもので、2026 年 9 月 26 日に館の公式サイトと発表で確かめました。
未来館と常設展示のねらい
未来館は 2001 年 7 月 9 日に開館した国立の科学館で、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営しています。館が掲げる設立の理念は、科学技術を文化として捉え、その役割と未来について「考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」です。
館長の浅川智恵子氏は、館のあいさつに、科学技術がもたらす「便利さをただ受け入れるだけでは、より良い未来は決してやってきません」と書いています。2030 年に向けた館のビジョンにも、未来館が本当につくり、伝えたいものは「先端の科学技術の成果でもなければ、その知識でもない」とあります。
副館長の高木啓伸氏のあいさつには「館全体が未来の展示場です」とあります。
「計算機と自然、計算機の自然」は 2019 年 11 月に公開された展示です。コンピュータとその上で動く AI が高度に発達した未来で、私たちの自然観や世界観がどう変わるかを問いかける展示です。自然と人工物の境目が溶け、デジタルとアナログが互いを高め合う状態を「新しい自然」と捉える考え方が土台です。
蝶のひそむ木々とカメラの映像
展示エリアの中心には 2 つのシンボル展示があり、今回どちらも作り直されました。
「計算機と自然」は、印刷で再現した蝶が樹木や草花にひそむ空間です。自然のものと、計算機が作り出す人工物が境目なく混ざっています。新しく、割れた液晶のイメージが液体のようにうねり、形を変え続ける映像作品が加わりました。いけばなは華道家の辻雄貴氏、映像とインスタレーションは落合氏、蝶の構造色印刷は富士フイルムイメージングシステムズが手がけています。
「計算機の自然」は、会場に置いたカメラが捉えた映像から、AI がその場で新しい映像を作り続ける作品です。ノイズの画像から鮮明な画像を復元する過程を学ぶ「拡散モデル」という技術を使っています。館の発表によると、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「null²」の新しい AI 技術を使った表現を応用したもので、館はこのリニューアルを「大阪・関西万博シリーズ第二弾」と呼んでいます。
受話器の向こうの声とメガネなしの立体
書き出しの受話器の作品は、大量の文章から言葉の構造を学ぶ「大規模言語モデル」が仕組みの軸です。

もう一つの新作「これは計算機の中と外、どっち?」は、特殊なメガネなしで立体映像を見る「裸眼 3D 立体視」を使います。カメラが一番近くにいる人の両目の位置を追い、その視線に合わせた映像をモニターに出し続けて、立体に見せる仕組みです。実体のある彫刻と立体のデータを一つにつないだ作品で、原案と制作は筑波大学の横山拓巳氏と筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターです。落合氏はこのセンターのセンター長でもあります。
入れ替わりに、「昔も今も色は一緒?」と「ここは計算機の中と外、どっち?」の 2 つは公開を終えました。題の似た「ここは〜」が前の展示で、いまの新作は「これは〜」です。
横浜の null²ⁿ や花博の null⁴ とのつながり
大阪の null² のあと、落合氏は横浜ランドマークタワーの常設シアター「null²ⁿ(ヌルヌルネクサス)」と、GREEN×EXPO 2027 の新作「null⁴(テトラヌル)」を発表しました。null⁴ は会場内の SATOYAMA Village に置かれる予定です。発表文は、デジタルと物理が溶け合う世界観を「計算機自然」と呼んでいます。
未来館の常設展は、その発表文では落合氏の経歴の中に「2019 年〜」として挙がっています。横浜の 2 つとは別の展示です。null² から null²ⁿ・null⁴ への経緯は起点の記事に、null²ⁿ の行き方と料金は訪問ガイドに書きました。
2027 年 4 月までの休館
休館前の開館時間は 10 時から 17 時で、入館券の購入と受付は 16 時 30 分までです。休館日は火曜日ですが、祝日や夏休み期間などは開くことがあります。展示は 3 階の常設展示ゾーンにあり、常設展の入館料で見られます。
| 区分 | 常設展の入館料 |
|---|---|
| 大人(19 歳以上) | 630 円 |
| 18 歳以下(小学生以上) | 210 円。土曜日は無料 |
| 未就学児 | 無料 |
2026 年 10 月 1 日から 2027 年 4 月 22 日までは施設整備工事で休館しています。休館明けにこの展示が同じ形で見られるかは、館の発表には書かれておらず未確認です。
テレコムセンター駅からの行き方
最寄りは新交通ゆりかもめのテレコムセンター駅で、徒歩約 4 分です。東京国際クルーズターミナル駅からは徒歩約 5 分、りんかい線の東京テレポート駅からは徒歩約 15 分かかります。
神奈川方面からは、JR 湘南新宿ラインや京浜東北線で大崎駅か大井町駅まで行き、りんかい線に乗り換えるのが便利だと公式サイトは案内しています。大井町駅から東京テレポート駅までは約 8 分です。ゆりかもめなら、新橋駅から東京国際クルーズターミナル駅まで約 16 分です。土日祝は、錦糸町駅と森下駅から都営バスの急行便が未来館まで出ています。
車なら地下駐車場が 167 台(身障者用 4 台を含む)で、1 時間 440 円、当日の最大は 1,650 円です。
本で読む・耳で聴く
展示の土台にある考え方は、落合氏の『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』PR(PLANETS)で論じられています。展示そのものの解説書ではありません。リニューアルで加わった生成 AI の作品の背景なら、落合氏が責任編集した『生成AIが変える未来』PR(扶桑社)があります。展示を見る前後に耳から入るなら、落合氏の『忘れる読書』PRが Audible で聴けます。